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車は一路 南へ向かいます

高く青い空の彼方に すじ雲が見えています
 

今日は 月に一度の連休の日

「この時期のお決まり」 を見に行くところです
 

目的の場所は 南の町のさらに南

そこには小さな丘があって その丘に行くのがこの時期のお決まりなんです
 

「ところで なんでそんなに急いでるんですか?」

助手席のマスターが おじいさんとおばあさんに聞きました
 

「あー なんか込み入った話なら別にいいですけど」

そう付け加えます
 

南の町に向かうバスは 日に数本

1本逃しても 何時間か待てばいいはずなんです
 

それなのに わざわざちょっと離れた太い道まで出てきてヒッチハイク

急いでいなければ こんなことはしないと思うんです
 

「あのね。こないだ、孫が生まれたの」

これ以上はないと言う笑顔で おばあさんが言いました
 

「せがれは、そのうち連れていく、と言うんじゃが、待ってられなくてなあ」

おじいさんが 照れたように言います
 

「居ても立ってもいられなくなったわけですか。うちの親父もそうでしたよ」

マスターが 後ろを振り向いて言いました
 

……そう言えば そうでしたね

マスターのお父様 お仕事そっちのけですっ飛んでいきましたっけ
 

「そう言うわけで、ご迷惑おかけします」

とおばあさん
 

「すまんのお」

とおじいさん
 

バックミラー越しにお二人が頭を下げているのが見えました
 

「迷惑なんてそんなことないです」

とわたし
 

「あー お互い様ですから、気にしないで下さい」

とマスター
 

いつもよりもにぎやかで いつもよりも楽しくて

わたしたちがお二人に お礼を言いたいくらいなんですから
 
 


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