しゅんみん
 
 
 
ある日の午後
「うららか」という言葉がぴったりと当てはまるような そんな春の日

「ふわっああぁ……」
お店の中に マスターのあくびが広がります

卒業シーズンも過ぎて お客さんの少ないいつもの日々
マスター ちょっと気が抜けちゃったみたいです

「ふわぁ〜〜〜〜あ ふぅ……」
眠気覚ましのコーヒーも 全然効果がないみたい

眠そうな腫れぼったい目をして 椅子に腰掛けています
朝からずっとこんな感じ

…そうですね お店の空気を入れ換えてみましょうか?
お店の窓を半分くらい開けて 春の息吹を迎え入れます

春の風 夏でも冬でもない 春だけにしか吹かないそんな風が
お店の中でおどっています

ふっと目をやると 窓の外には舞い散る桜の花びら
その向こうを 子供たちがかけていきます

「…春ですね」 思わずそうつぶやきます
でもマスターの反応がありません

横を見ると いつの間にか寝息を立てているマスターが…
結局 眠気にはかなわなかったみたいです

風邪をひかないように 大きめのタオルケットをかけて…
ちゃんとお布団で寝たほうがいいんですけど ね

静かに寝息を立てているマスターの傍らで
わたしは舞い散る花びらを なんとはなしに見ていました
 

しばらくして…
「んっ、ん〜〜〜〜っ」

どうやらマスターが 目を覚ましたみたいです
軽く伸びをしながら 焦点の合わない目でこっちを見ています

「おはようございます。マスター」
「あ、おはよう、椎那… えっと、おれどのくらい寝てたんだろ?」

まだ頭がぼやけてるみたいです
「1時間くらいですね。もうすぐ夕方です」

「そっか… ついつい眠くなっちまうなんて、春だなぁ…」
ほっぺをぽりぽりかきながら マスターがそうつぶやきます

「春、ですね…」
わたしもなんだか眠たい気分 やっぱり「春だから」でしょうか?

暖かい日差しとやわらかな風 舞い散る桜の花びら
そんな春の日の 出来事でした

fin990420


 
 
 
 
 
 
 
 
 
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