僕らが一息ついたころ、僕の言葉を補うようにセリオが説明を始めた。
「――今までのコンピューターは、学んだことを”情報”というかたちでメモリに記憶し、必要に応じてそれを引き出していました」
こと、こういう話題に関してはセリオの方が格段上。
特に今回の話はセリオのプロセッサの話だから、僕も勉強かたがた聞かせて貰う
「――それに対して、超並列処理演算神経網プロセッサは”学んだこと”を内部チップ同士の繋がり方と各チップの持つ性格、位置付け、と言う形で記憶します」
”人間の脳が物事を覚えるときと同じ”と言うこと。
違うのは、チップに相当するニューロンには性格付けがなくて、その分つながりの数が格段に多いことくらいかな?
「――ですから、似通っているけれど全く同じではない情報、状況に対してもそれを認識して対応することができます」
人間と同じようにパターン認識が出来るということだ。
もちろんソフトウェア的にも出来るけど、柔軟性や処理速度は段違い。
さて、どうだろう?
セリオの説明、ちょっと難しかったかな……?
視線をセリオから部長に戻す。……
案の定、部長が固まっていた。
やっぱりなあ……
「――つまり、”人間と同じようにものを記憶し、状況を判断することができる”と言うことです」
「なるほど、そう言う風に入ってもらえるとわかる」
セリオの要約に、部長が苦笑いしながら答えた。
「もっとも」
と僕がさらに二の句を継ぐ。
「人間の脳にあるニューロンの数に比べて、内部チップの数は圧倒的に少ないんだそうです」
全く人間と同じじゃないってことは説明しておかないといけない。
「ですから、チップ一つ一つがそれなり以上の能力を持っていて、足りない部分を補うようにしてるんだとか」
そう、百数十億ある人間の脳のニューロンに比べたら、チップの数は格段に少ない。
チップの小型化にも限界があるし、それにコストも馬鹿にならない。
まだそこまで技術がたどり着いてない、といえばそれまでだけど。
「それでも全く人間と同じようなロボットを作るのは難しいって話ですけどね」
全く人間と同じように振る舞うロボット。
泣いて笑って怒って悩んで…… そんなロボット。
見てみたいとは思うけど、ちょっと恐い気もする。
「そっか… でもまあ、それでも昔のコンピューターに比べたらよっぽど人間に近いと言うことなんだな。セリオがどんどん柔和になって、親しみやすくなってきたのもわかるような気がするよ」
部長が納得したようにうなずく
「――ありがとうございます」
セリオが照れてる。
傍目にはわからないだろうけど。
「余談ですけど、こういう機構だとロボットはそれぞれが違った育ち方をします」
そう、とりまく環境一つで大きく変わってしまう。
「人間と同じで全く同じものは2人存在しなくなるんです」
「それじゃ、うちのセリオはうちだけのセリオということになるのか?」
「ええ、今試験運用で社内に5人のセリオが居ますけど、うちのセリオはうちだけのセリオです」
これは掛け値なしに言える。
「そっか、それならなおのこと、大事にしなくちゃな」
本人…… とうのセリオ本人を目の前にしてよく言えるものだ。
案の定、セリオがどう対処していいかわからなくて困ってる。
「――ご期待に添えるようにがんばりたいと思います」
”serio”と言う名の通りに、セリオが生真面目に返事をする。
そして、本当に期待に応えようとするだろう。
だから……
「あ、そんなにきばんなくていいんだよ。セリオは”セリオ”になればそれでいいんだから。無理して人間のように振る舞うことはないし、ことさらロボットのように振る舞う必要もない、今まで通りでいいんだから」
「――ありがとうございます」
かすかに微笑むセリオ。
うん、急ぐことはないんだよ。
ゆっくり行けばいいんだからさ。