ちっちゃなセリオの物語〜情けは人のためならず?(2/3)

 数時間後。相変わらず、ちびセリオは途方に暮れていました。 「はぁ〜。追いかけっこでずいぶんバッテリーを使っちゃいました〜。そろそろどこかで充電しなくちゃいけないですね〜」  どら猫との追いかけっこで走り回り、スタンフィンガーまで使ってしまったせいで、かなりバッテリーを使ってしまったのです。 「幸い、充電ユニットとランドセルがありますから〜、電源さえあれば充電できますし〜、 ランドセル背負っちゃえばしばらくは充電しなくてもなんとかなりそうです〜」  ランドセル、と言うのはちびセリオの大容量バッテリーパックのことです。  開発者のちゃめっ気にあふれたデザインのおかげで、小学生が背負っているランドセルのような形をしています。  もちろん使うときはランドセルのように背中に背負って使います。  身体が小さいちびセリオにとって、バッテリーを大量に使うような行動、例えば衛星へのデータのアップロードや PHS機能を使った会話などは、このランドセルがないとできません。 「問題は、どこで充電するか、ですね〜。はぁ〜、困りました〜」  そう、折角のランドセルも中身が空っぽでは役に立ちません。  どこかでフル充電しなくてはいけないのです。  でも、道端にコンセントがあるわけもなく、ちびセリオはボーっと夕暮れ時の空を見上げていました。  バッテリーの残りはあとわずか。  追いかけっこしたせいでいつもの充電タイム――真夜中――までもちそうもありません。 「道端にコンセントなんてないですし〜、はぁ、どうしましょ」  頭を抱えるちびセリオ。  解決策が浮かばないまま、時間だけが過ぎていきます。  空にはいつのまにか一番星。 「こうしててもしょうがないです〜。とにかく動きましょ」  ちびセリオはすくっと立ち上ると、ダンボールから出て道を歩き始めました。  もちろん、背中にはランドセル、両手には充電ユニットを抱えています。 「さてどうしましょ?」  ちびセリオが捨てられていた板塀のお家の塀には猫が通れるくらいの小さな穴が開いてます。  ちびセリオはその穴をくぐりました。  穴の向こうにはお庭と木造平屋の純日本風なお家がありました。  ちびセリオがその家に向かって歩いて行くとそのお家の縁側に人影が見えます。 「ここのお家の人でしょか? 充電させてもらえるかもしれないですね〜」  ちびセリオはその人影の足元に歩いていきました。  縁側に座っていたのは品のよさそうなおばあさん。  縁側に腰掛け、庭を見ながらうちわをあおいでいます。  足元にたどり着いたちびセリオはおばあさんを下から見上げました。  あれ、このおばあさんどこかで見たことがあるような…… ――「あらあらかわいそうに、これあげるから元気出しなさいね」  そう、ちびセリオに魚肉ソーセージをくれた人です。  この家の人だったんですね。 「あの〜、突然すみません〜」  意を決して、ちびセリオがおばあさんに声をかけました。 「はいはい、どなた?」  と答えては見たものの、突然の訪問者の声はすれども姿は見えず。  おばあさん、きょろきょろとあたりを見回しています。 「おかしいわねえ。空耳だったかしら? 歳は取りたくないわねえ」  ちびセリオを見つけられなかったおばあさんは、自分の空耳かと首をひねっています。 「空耳じゃないです〜。足下に居ます〜」  そんなおばあさんに、足下のちびセリオが言いました。 「え? 足下??」 「はい〜、足下です〜。ここです〜」  おばあさんは驚いたように自分の足下を見ました。  おばあさんの視線の先には、ぴょんぴょん飛び跳ねるちびセリオの姿。 「あらあら、随分と小さいお客さんだこと」  びっくりしたおばあさん、そう言うのがやっとです。 「あう、驚かせてごめんなさいです〜」  ちびセリオがぺこぺこと謝っています。  おばあさんはしゃがみ込むと、ちびセリオを縁側に拾い上げ、そしてしげしげと見つめました。 「あなた、さっきうちの前に居た子ね。どうしたの?」  おばあさんもちびセリオのことを覚えていたようです。 「えっと、実は〜、電気を少し頂けないかと思いまして〜」  ちびセリオはおばあさんを見つめながらそう言いました。 「電気? えーっと、電気って電線伝ってくるあの電気?」  おばあさん、驚いたように聞き返します。 「はい〜。厚かましくて申し訳ないんですけど〜、充電したいんです〜」 「充電……。ああ、そう言うことね。うん、いいわよ」  おばあさん、ちびセリオ言葉を聞いて納得したようです。  充電を快諾してくれました。 「そっか、おチビちゃんは電気で動いてるんだったわね。ソーセージじゃお腹の足しにならないわね」  おばあさん、さっきの自分の行動を思い出して苦笑い。 「でも充電ってどうやるの? うちで出来るかしら? わたしそう言うのには疎いし、うちには道具もないし……」  おばあさん思案顔。 「だいじょぶです〜。コンセントがあれば充電できます〜」  ちびセリオは手に持った充電ユニットをおばあさんに見せました。 「あらそう。それじゃ好きなだけ充電なさい。構わないわ」 「ありがとです〜」  全身でうれしさを表現するちびセリオ。  おばあさんはにこっと笑うとそんなちびセリオの頭を優しくなでて上げました。 「ところであなた……えーっと、なんて呼べばいいのかしら」 「あう、自己紹介が遅れました〜。わたしは〜、来栖川電工で作られた、HM-13Chibi型メイドロボット、ちびセリオと言います〜。 愛称はまだ設定されていません〜。ですから、ちびセリオ、とお呼びくださいませ〜」 「ちびセリオちゃんと言えばいいのね? わかったわ」 「はい〜。よろしくお願いします〜」  ちびセリオはちっちゃい身体をいっぱいに使って自己紹介をしました。  愛称がまだ決まっていないと言うことは、購入されて間もないか、もしくは名前を決めかねているか、そんなところでしょう。 「それでちびセリオちゃん。あなた一体どうしたの? 昼間の様子だと迷子ってわけじゃなさそうだけど……」  おばあさんはちびセリオにそう問いかけました。  確かにちびセリオがダンボールに入って置かれている光景は一般的ではありません 「えっと〜、話せば長くなるんですが〜、わたし捨てられちゃったんです〜」  そう言うとちびセリオはしょんぼりうなだれました。 「あれま。あなたみたいな子を捨てるなんて、随分酷いわねえ……。うん、ま、いいわ。お腹空いたでしょうから 部屋のコンセント使って充電なさいな」  おばあさんはちびセリオの電池の具合を気づかってか、話をそこで切り上げて部屋の障子を開けました。  もしかするとちびセリオの目に涙の雫が見えたから、そこで話を切り上げたのかも知れません。 「あう、ありがとです〜。それじゃお言葉に甘えて充電します〜」  ちびセリオは深々と頭を下げると、部屋のコンセントの前に行って充電ユニットをセット。  そのままスリープモードに入りました。  おばあさんはしばらくの間ちびセリオの様子を見守ってから縁側へと戻っていきました。  充電中、ちびセリオは記憶の整理をしていました。  夢を見ていると言えばわかりやすいかも知れません。  ちびセリオの頭の中には、昼間のお家でダンボールに入れられ、道端に運ばれて捨てられる時の映像が フィードバックされていました。 ――「いいか、おまえは捨てられることになったからな」  ちびセリオの目の前の男の子がそう言います。 「ほへ? ど、どういうことでしょか?」  ひょいと持ち上げられ、ダンボールに入れられるちびセリオ。  ダンボールごとどこかへ連れて行かれるようです。  しばらくして、ダンボールが開けられました。どこかの道端です。  呆然とあたりを見回すちびセリオに、男の子はこう言いました。 「おまえは捨てられたんだから、もううちに戻ってくるなよ」 「おまえは捨てられたんだから、もううちに……」 「おまえは捨てられたんだから、……」 「おまえは……」  ちびセリオはゆっくり目を開けました。  辺りをきょろきょろと見回します。  真っ暗闇な部屋の中。時刻はまだ明け方です。 「知らない場所です……。わたし、ほんとに捨てられちゃったんですね……」  そうつぶやいた途端、ちびセリオの大きな目から大粒の涙がぽろぽろと落ちました。 「きっとわたし、自分が気づかないところで粗相をしてたんですね。だから捨てられちゃったんですね。 ごめんなさいです。ごめんなさいです……」  目をぎゅっとつぶるちびセリオ。  でも涙は止まりません。  もう一度ごめんなさいと言おうとしたとき、彼女の意識が遠のいて行きました。  保護回路が働いたようです。  次にちびセリオが目を開けたとき、目の前に誰かの顔が見えました。 「マスター……さん?」  でも残念なことに、それはマスターさんではありません。 「大丈夫?」  ちびセリオの目の前に、おばあさんの心配そうな顔がありました。  ハンカチでゆっくりとちびセリオの涙を拭ってくれます。 「あの、わたし……」 「朝になったから様子を見に来たの。大丈夫? 怖い夢でも見た?」  おばあさんはちびセリオの頭をそっとなでてくれました。 「あう、だいじょぶです。ご心配おかけしてごめんなさいです」  状況を理解したちびセリオは精一杯の笑顔でそう応えました。  そして充電用のケーブルを抜いて立ち上ると、深々と頭を下げおばあさんにお礼を言いました。 「おばあさんのお陰で充電することができました〜。ありがとうございました〜」 「ううん、気にしなくていいわよ。あなたが家の前に捨てられていたのも、きっと何かの縁だと思うわ」  おばあさんはそう言うと、またちびセリオの頭をなでてくれました。 「あうあう、ありがとうございます〜。それで〜、なにかわたしにお手伝いできることはないでしょか? 充電のお礼がしたいんです〜」  ちびセリオはおばあさんにそう言いました。 「お礼なんていいわよ。気にしないの」 「あう、でもでも〜、それじゃ気がすまないです〜」  ちびセリオは、おばあさんの顔をじっと見つめてそう言いました。 「そうねえ。それじゃお言葉に甘えて家の事を手伝ってもらおうかしら」  おばあさんはちょっと考えてからにっこり笑うとそう言いました。 「はい〜」  それを聞いたちびセリオもにっこり笑いました。 「そしたらお掃除からはじめましょうか?」 「はい〜」  おばあさんの言葉にちびセリオが両手を上げて応えます。 「それじゃまずこの部屋からね」  おばあさん、いつのまにか割烹着に三角巾と言ういでたち。  右手にははたき、左手にはほうきを装備しています。 「えっと〜、おばあさんとわたしでやるんですか〜? 他の人は居ないんでしょか?」  やる気満々のおばあさんを見て、ちびセリオが尋ねます。  そう言えば昨夜からおばあさん以外の人をこの家で見かけません。 「うん、そうよ。ここにはわたしとちびセリオちゃんしかいないから」 「ほへ? おばあさん、一人暮らしなんですか〜?」 「うん」 「寂しくないですか〜?」 「もう慣れちゃったわ。さ、始めるわよ」 「は、はい〜」  おばあさんは右手に持ったはたきで部屋の高いところのほこりをバッバッバッバッバッとはたいていきます。  一通りはたき終わったところで、今度は畳に茶殻をまきほうきで、ザッザッザッザッザッと掃いていきます。  手馴れたもんです。  ちびセリオ、出る幕なし。一通り掃き終ったところで、今度は雑巾がけです。 「ねえちびセリオちゃん、悪いけど棚の上をこれでふいてもらえないかしら?」  おばあさんはちびセリオを棚の上に載せると、固く絞った雑巾を渡しました。 「わかりました〜」  キュッキュッキュッキュッキュっとちびセリオが棚の上をふいていきます。  おばあさんはその隙に畳の雑巾がけです。 「棚の上、終わりました〜」  ちびセリオが声をかけます。 「ありがと、そしたら今度はこっちの部屋ね」 「はい〜」  こんな感じでお部屋の掃除が進みます。  お部屋を全部掃除して、廊下も掃除して、おトイレとお風呂場も掃除して、これからお台所です。 「むっ」  ちびセリオが流しの前で止まりました。 「どうしたの?」 「おばあさん、おばあさん、ゴキブリ用の殺虫剤はあるでしょか?」  ちびセリオはおばあさんのほうを振り向くとそう言いました。 「あるわよ。はい、これ」  おばあさんが持ってきたのはノズルの先がびよーんと長く伸びるタイプの殺虫剤。細い隙間にも噴霧できるタイプです。  ちびセリオはそのノズルを持つと、ててててて、と流しと冷蔵庫の隙間に入っていきました。 「あ〜、やっぱりいました〜。団体さんです〜」  奥からちびセリオの声。  どうやらゴキブリの団体を見つけたようです。 「おばあさん、おばあさん、ボタン押してください〜」 「え? ボタン? えーっと、えいっ」  ぶしゅーーーーーーーーっ。 「ねえ、ちびセリオちゃん。いつまで押していればいいの?」  おばあさんがそう尋ねました。 「もういいです〜」  奥からちびセリオの声。そして…… 「きゃっ」  流しの下からよろよろと出てきて、コロンとひっくり返るゴキブリたち。おばあさん、驚いています。 「だいじょぶです〜。皆さん、虫の息です〜」 「あ、そ、そうなの?」  ひいふうみいよう……ざっと見て10匹弱のゴキブリ。  ちびセリオはこのゴキブリたちの気配を感じ取ったのですね。 「ついでに〜、卵さんも処理しちゃいました〜。これでしばらくはゴキブリさんでないです〜」 「ありがとね。わたしゴキブリ苦手で」  おばあさんはゴキブリをちりとりで取ると、トイレに流しました。 「お役に立てたでしょか?」 「うん、十分よ」  小首をかしげるちびセリオ。  おばあさんは、にっこり笑うとちびセリオの頭をなでてあげました。  それからおばあさんとちびセリオは玄関の掃除をして、お庭と門の外に打ち水をしました。  ……と言っても、ちびセリオはおばあさんの肩の上に居ただけです。 「はい、おしまい。ちょうどいい時間だからお昼の支度しましょうね」  おばあさんは打ち水に使った柄杓と桶を片付けるとそう言いました。 「お昼何がいいかしら…… ちびセリオちゃん、何がいい?」  おばあさんがちびセリオに問いかけます。  思案顔のちびセリオ。むむむ、といった感じで悩んでいます。  すると突然おばあさんが思い出したように言いました。 「あらやだ、わたしったらまた勘違いして。そうよね。ちびセリオちゃんは食べれないのよね」 「はい〜」  済まなそうなちびセリオ。  自分の勘違いに苦笑いのおばあさん。  確かにちびセリオはご飯を食べられないですね。  おばあさんはちびセリオを自分の割烹着のポケットに入れると台所に立ち、お昼ご飯の支度を始めました。  昼過ぎ。  おばあさんとちびセリオはお庭に面した縁側に腰掛けてのんびりしていました。  お庭を風が吹き抜けていきます。 「ちびセリオちゃんのお陰で、今日のお掃除は楽しかったわ」  おばあさんがちびセリオにそう言いました。 「あうあう、ゴキブリさん退治以外は何にもお役に立てなかったです〜」  ちびセリオが照れたようにそう言います。 「ゴキブリ退治だけで十分及第点よ。ほんとに助かったわ」  おばあさん、しみじみとそう言いました。ゴキブリが大嫌いみたいです。 「それにね。誰かと一緒に家事をするのは本当に久しぶりなの。楽しかったわ」  おばあさんには身寄りが一人。  結婚して家を離れた息子さんが居ます。  旦那さんは数年前に亡くなりました。それ以来、ずっと一人でこの家に住んでいるのです。 「そうなんですか〜。お役に立ててよかったです〜」  自分が役に立てたことを喜ぶちびセリオ。  そんなちびセリオを、おばあさんはとても優しい目で見つめていました。  暖かな日差し。  吹き抜けていく穏やかな風。  まるで時間が止まったような空間がそこにありました。  おばあさんとちびセリオは、お互いの身の上話をしながらそんなてろてろの時間を過ごしていました。 「あら、そうなの。それじゃ前のお家ではずいぶん可愛がられていたのねえ」 「はい〜。マスターさんもご家族の皆さんもとても可愛がってくださいました〜」 「なのに、なんでまたダンボールなんかに……ねえ」  おばあさん、お茶を一口すすると何かを考えるように中空を見つめました。 「よくわかんないです〜。きっとわたし、なにか粗相をしちゃったんだと思います〜」 「そうだとしても、変よねえ。いきなり捨てたりはしないわよ」 「そうなんでしょか?」 「そう思うんだけどねえ」  おばあさんとちびセリオは揃って首を捻る仕草をしています。 「ま、いいわ。理由はよくわからないけど、ちびセリオちゃんに行くあてがないならうちの子になりなさい。歓迎するわ」  少し間を置いて、おばあさんはにっこり笑うとそう言いました。 「ほへ? え、えっと、でもでも、大したお役に立てませんし〜」  突然のおばあさんの提案――半ば命令――に慌てるちびセリオ。  でもこれで、夜露もしのげるしお腹が空いて路頭に迷うこともなくなります。 「居てくれるだけでいいのよ。わたしみたいな年寄りにはね、話し相手になってくれるだけで十分なの」 「そ、そうなんでしょか?」 「うん、そう」 「え、えっと〜。そしたらご厄介になってもいいでしょか?」 「うん、よろしくね。ちびセリオちゃん」 「はい〜」  ちびセリオの元気のいい返事に顔をほころばすおばあさん。  えへへへへ、と笑うちびセリオ。  なんだか二人ともとてもいい顔をしています。  しばらくしてちびセリオは縁側で日向ぼっこしながら居眠りを始めました。  ロボットが居眠り、と言うのはなんだか変かもしれませんが、これはちびセリオの仕様なのです。  おばあさんはちびセリオを部屋の中に運ぶと、自分のハンカチをかけてあげました。  そして勝手口から家の外に出て表の道路に置かれたダンボールの前まで行きました。 「これもう必要ないわね」  おばあさんはそうつぶやくと、ちびセリオが入っていたダンボールをたたんで、家の奥に持って行きました。  ところ変わっておばあさんの家の前。  おばあさんがダンボール箱を片付けたほんの十分ほど後のことです。 「ねえお兄ちゃん、ホントにここなの?」  小学生くらいの女の子が横に居る同じく小学生くらいの男の子に声をかけました。 「確かここのはずなんだけどなぁ」 「うそ。居ないじゃない」 「うそなんかついてないよ。ここに置いたんだよ。ダンボールに入れて……。もう誰かに拾われちゃったのかなぁ」  男の子が女の子に言い返しました。どうやら兄妹のようです。 「うそ。だって、ダンボールなんかないじゃない。ちびセリオちゃんもいないじゃない。お兄ちゃんのうそつき! うそつきうそつき!! もう大キライッッ」  女の子は激情に任せて叩きつけるように言うと、泣きながら自転車に乗って行ってしまいました。 「あ、おい、待てよ!」  男の子は慌てて女の子の後を追いかけて行きました。  次の日の昼前、ちびセリオとおばあさんは洗濯物を干していました。  物干し竿に干され風にたなびく洗濯物の中には、昨日のゴキブリ退治で汚れてしまったちびセリオの服も入っています。  着替えを持っていないちびセリオは、白いボディスーツの上におばあさんが昨夜作ったスモックと言う姿で、 おばあさんの肩の上に乗っています。 「今日はお洗濯日和ですね〜」  ちびセリオが洗濯物を見てそう言いました。 「そうね。今日の陽気ならすぐに乾くわね」  おばあさんもにっこり顔で洗濯物を見ています。 「お洗濯が楽しかったなんてずいぶん久しぶりだわ。それもこれもみんなちびセリオちゃんのお陰よ」 「あう、お役に立ててうれしいです〜」  照れるちびセリオ。  そんなちびセリオをおばあさんはニコニコしながら見ています。  それにしても今日はいいお天気です。  洗濯日和とはまさにこういう天気を言うのではないかと思えるくらいのいい天気です。 「うん、今日はついでに庭の草むしりもしちゃおうかな」  おばあさんはちょっと雑草の目立ってきた庭を見てそう言いました。  そして家に戻ると軍手とむしった草を入れるビニール袋を持ってきました。  軍手をはめてしゃがみ雑草をむしり始めます。 「わたしもお手伝いします〜」  ちびセリオも近くの雑草を引っこ抜き始めました。自  分の背丈以上の雑草に果敢にアタックしていきます。  ちびセリオが雑草の根元を抱え込んで、よっこいしょ、と引っ張ると、ずぼっ、と言う感じで 背丈よりも大きい雑草が根元から抜けました。  ちびセリオに引き抜ける雑草なんて高が知れている、と思うかもしれません。  でも実はちびセリオ、こう見えて結構力持ちなのです。 「よいしょっ」  ずぼっ。 「よいしょっ」  ずぼっ。  ちびセリオは、かなり早いペースで雑草を抜いていきます。  おばあさんはそんなちびセリオの姿に目を細めています。  そして、負けてられない、とばかりに自分も草むしりの手を早めました。 「よいしょっ、よいしょっ」と雑草を引き抜くちびセリオ。  その横に並んで草をむしるおばあさん。  二人の頭の上を雲がゆっくりと通り過ぎていきます。

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