アマガミ 響先輩SS 「創設祭!」


 「あれ、橘君」

 「あ、塚原先輩」

 「どうしたの? 約束の時間よりもずいぶん早いよね?」

 「この間と一緒です。うれしくてつい早く来ちゃいました」

 「くす、そうなんだ」

 「先輩は?」

 「私は水泳部の屋台の準備。なんだかちょっと傾いていて、直さなくちゃいけなさそう
 なんだ。それで、角材を探していたら君を見かけた……と言うわけ」

 「なるほど、角材ですか……」

 「うん、そうなんだ。なかなかなくてね」

 「一緒に探しますよ。例えば……あのステージの裏あたりに転がってないですかね」

 「ああ、あの辺なら確かに……」 

 「見つけて持っていきますよ。このくらいのサイズでいいんですよね」

 「あ、うん、そう? ごめんね。手伝わしちゃって」

 「いいですよ、このくらい」

 「(……といっては見たものの、なかなかないな。あ、いい感じに止まっていない角材
 を発見!)」

 「(よっこいしょ……と。これでOKだ)」

 「塚原先輩、お待たせしました」

 「早かったね。ありがとう」

 「先輩。ありがとうございます。これでおでんがこぼれなくてすみます」

 「お、七咲が屋台の売り子なんだ」

 「そうなんです。ふふ、今日のおでんは自信作ですよ」

 「そっか、それじゃ出来上がったころに食べに来るよ」

 「ええ、お待ちしてます」

 「どう? 七咲。なんとかなりそう?」
 
 「はい、大丈夫です。あ、塚原先輩、こっちは私一人でなんとかなりますから、
 先輩と出歩いてきてもらっていいですよ」

 「え? そう言うわけにはいかないでしょ」

 「大丈夫です。いざとなったら手伝ってくれるって森島先輩が言ってましたし」

 「はるかが、ねえ……。ふふ、ひとりでおでんを食べちゃわないといいけど」

 「あ、それは確かに困りますね」

 「大丈夫だと思うよ。さすがの森島先輩でもこのおでんを食べきることは無理だろうし」

 「あ、なるほど……」

 「でも、はるかはミスサンタコンテストに出るから、その間は一人よ。大丈夫?」

 「はい、任せてください」

 「それじゃ、よろしく頼むわね」

 「はい!」

 ……

 「あ、そろそろステージでなにか始まるみたいですね」

 「えーと、時間的に創設祭の実行委員長の挨拶かな」

 「へー」

 「皆様、本日は輝日東高校創設祭にご来場賜り、誠にありがとうございます。
  この創設祭は、当校の創設者の掲げる報恩感謝の精神に基づいて開催され、
  今年で57回を数えるまでになりました」

 「今年の実行委員長、ずいぶん落ち着いているね。彼女やるわね」

 「へー、絢辻さんが実行委員長だったんだ」

 「知ってるの?」

 「ええ、クラスメートです」

 「あ、そうなんだ。あの上に立つのって結構緊張するんだよね」

 「よく知ってますね」

 「うん、去年彼女のいるところで同じように挨拶したから」

 「え?」

 「あ、言わなかったっけ? 私、去年は実行委員長だったんだ」

 「そうだったんですか。見てみたかったな、先輩の挨拶」

 「そんな大したものじゃないよ」

 「いえ、僕の予想では今日の絢辻さんを越える挨拶だっただろうと」

 「どうかな? そう言うのって自分じゃわからないからね」

 ……

 「うぉーーーーーーー」

 「あ、そろそろ始まるかな。ミスサンタコンテスト」

 「森島先輩が出るんですよね」

 「うん、多分……」

 「多分ってどういうことなんですか?」

 「はるかが、今年は出ないって急に言い出して、さっき説得したんだ」

 「ええ!?」

 「出ないつもりで衣装も用意してないって言うから、私が作っておいたはるか用の
 衣装を押しつけて、いいから出てらっしゃいって送り出したんだけど……」

 「そうだったんですか」

 「さて、それではいよいよコンテストスタートですっ!!」

 「(お、これは中々すごい衣装だ……)」

 「(わ、こっちもセクシー。確かに塚原先輩が言うように衣装が過激だ……)」

 「橘君。顔がにやけてるよ」

 「え、ええ!?」

 「くす、そろそろはるかの出番かな?」
 
 「それでは本日最後のエントリー。ディフェンディングチャンピオン!
 2連覇中の3年A組森島はるか先輩です!!」

 「どわぁぁぁぁぁ……」

 「はるか〜〜〜〜〜!!」

 「結婚してくれーーーー」

 「さすがは森島先輩。今年の衣装も冴えてます!」

 「うーん、ちょっとサイズが合ってないね…… ショックかも」

 「つ、塚原先輩、そんなに落ち込まないで……」

 「(む、胸元がパッツンパッツンだよ……。なんてことだ……)」

 「チュッ♪」

 「どわぁぁぁぁぁ……」

 「うおおおおおおお!」

 「森島ーーーーー!」

 「こ、これはすごい……」

 「これは決まりかな……」

 「(も、森島先輩、最高です……)」

 「す、凄すぎる…… 凄すぎます。森島先輩!」

 「今、審査結果が出ました! 優勝は…… 森島はるか先輩です!! 前人未踏の
 3連覇達成です。今、輝日東高校創設祭に新たな1ページが刻まれました!!!」

 「みんなー。ありがとうーー!!」

 「おおおおおおおおおおおおおおお」

 「3連覇おめでとーーー」

 「森島先輩、おめでとうございます。喜びの声を聞かせて下さい」

 「えーと、実はついさっきまで今回のコンテストには出ないつもりでした」

 「えーーーーーー」

 「でも、私の親友が衣装まで用意してくれて、背中を後押ししてくれたので、
 こうして優勝する事ができました」

 「そうですか、それはいい話を聞かせてもらいました」

 「あ、そうだ。この後のベストカップルコンテストに、今話をした私の親友が出るので、
 そっちも応援よろしくっ!」

 「おーーーーーーーー」

 「森島の言う事なら何でも聞くぞーーーー」

 「おい、森島の親友って誰だよ」

 「塚原じゃないのか?」

 「いや、でも、塚原はベストカップルコンテストってがらじゃないだろう?」

 「そうだけど、他に誰か考えつくか?」

 「つかないな……」

 「ちょ、ちょっとはるか、なに勝手に言い出すの」

 「べ、ベストカップルコンテスト!?」

 「そうですか、ではこのあとのベストカップルコンテストを楽しみにしたいと思います。
 森島先輩、本当におめでとうございます!」

 「わーーーーーーーー」

 ……

 「ふう、まさか本当に3連覇しちゃうとは、わたしが一番びっくりだな」

 「森島先輩、おめでとうございます」

 「ありがとう。さっきステージの上で言ったけど、ベストカップルコンテスト
 がんばってね」

 「ちょっとはるか、勝手に出る事にしないで」

 「いいじゃない。どこから見たってお似合いの2人なんだから」

 「そう言う問題じゃないでしょ?」

 「ひびきちゃんは私にコンテストに出るように言って、自分は出ないで逃げちゃう
 つもりなのかな〜?」

 「あ、そ、それは……」

 「高校生活最後の創設祭なんだから……って私を説得したのはどこのだれだったかな?」

 「そ、そうだけど…… は、恥ずかしいじゃない」

 「ふーん、そっか。橘君とステージに上がるのがそんなに嫌なんだ」

 「そんなことないわよ!」

 「……塚原先輩。せっかく森島先輩がお膳立てしてくれたんです。一緒にコンテストに
 出ましょう」

 「橘君、いいの?」

 「ええ、塚原先輩とベストカップルコンテストに出れるなら本望ですよ」

 「ひゅうひゅう、橘君格好いいなあ。ちょっと見直しちゃったぞ」

 「う、うん、わかった。……一緒に出てもらえるかな」

 「ええ」

 「それじゃ私は客席で見てるね。がんばってねー」

 「うん、はるか。ありがとう」

 「それでは只今よりベストカップルコンテストを行います」

 「出場する方は舞台脇までお集まり下さい」

 「そう言えば、ベストカップルコンテストって色々聞かれるんですよね?」

 「うん…… 確か2人の関係は? って聞かれるよね。なんて答えたら……」

 「……恋人同士ですって答えちゃえばいいですよ」

 「え?」

 「先輩がどう思っているかはわからないですけど、僕は……塚原先輩のことが好きです」

 「……」

 「特別な存在って言うのはそう言うことです」

 「……」

 「だから……その……塚原先輩さえよければ、僕の彼女になって欲しいなって……」

 「……」

 「塚原先輩?」

 「ふう、まさかこのタイミングで言われるとは思ってなかったから、びっくり
 しちゃった」

 「あ、すみません。いつ言おうかと思っていて、もう今しかないって思って……」

 「…………ふふ、うん、みんなの前で恋人同士ですって言っちゃおうか」

 「え?」

 「だって、私も君のことが好きだから」

 「塚原先輩」

 「それでは最後のエントリー、橘さん、塚原さんペアです」

 「それじゃ、行きましょうか」

 「うん」

 「ワ〜〜〜〜〜!」

 「ひびきーーーー」

 「くす、はるかが大声張り上げてる」

 「えっと、橘純一です」

 「塚原ひびきです」

 「ワ〜〜〜〜〜!」

 「おい、塚原が出てるぞ」

 「本当だ、塚原だ」

 「さてさて……では早速、そんなお二人にご質問をさせてもらいたいんですが〜
 まず始めに、お二人が出会ったのはいつ頃の事なんでしょうか?」

 「今年の秋……でしたっけ?」

 「そうだね」

 「そうですかそうですか。意外と最近ですね。第一印象はどうだったんでしょう?」

 「落ち着いた人だなあ……と」

 「はるかが面白い子を拾ってきたな……って思いました」

 「はははは」

 「なんだそれーー」

 「なるほど、森島先輩のご紹介だったわけですね」

 「では次、お二人の関係を一言で言うと?」

 「そうですね…… できたての恋人同士です」

 「そう……です」

 「お〜〜〜〜〜〜〜〜」

 「塚原に彼氏……」

 「最近雰囲気変わったのはそう言うことか」

 「えー、オレ塚原にアタックしようと思ってたのに……」

 「ひゅうひゅう〜〜 橘君いいぞいいぞ〜〜」

 「照れる塚原か…… 結構いいな」

 「これは堂々のカップル宣言です! しかも昨年の実行委員長、あの塚原先輩だ〜〜」

 「では最後に、お互いの好きなところをお願いします」

 「私のことを見える部分も見えない部分もしっかり受け止めてくれるところ……です」

 「ワ〜〜〜〜〜!」

 「パーフェクトに見えて、全然パーフェクトじゃないところです」

 「お〜〜〜〜〜〜」

 「ありがとうございました。ではこれより審査に移ります」

 ……

 「コンテスト、残念でしたね」

 「ふふ、そうだね。せっかくはるかがお膳立てしてくれたのにね」

 「そうですね」

 「でもいいんだ」

 「え?」

 「私は君の彼女になれたわけだし、それをみんなにお披露目することもできた。
 こんなのなかなかないからね。ちょっと……恥ずかしかったけど」

 「はは、そうですね」

 「随分予想外のことが起きたけど…… 高校最後の創設祭がいい思い出になったな……」

 「……それはよかった」

 「あ、いけない。屋台の片付けを手伝わないと……」

 「そうですね。七咲が困ってるんじゃないかな」

 「……」

 「……」

 「七咲、ごめんね」

 「あ、塚原先輩、橘先輩。コンテスト残念でしたね」

 「片付け、手伝うよ」

 「もう大体済みましたよ。部員みんなで手分けをしたので、すぐでした」

 「ごめんね、みんな」

 「いいんですよ。あ、一つ大事な仕事が残っていました」

 「なに?」

 「塚原先輩でないと務まらない仕事です…… これ返しておいていただけますか?」

 「あ、うん、わかった」

 「それじゃ、私はこれで。失礼します」

 「ありがとう。お疲れ様」

 「お疲れ」

 「……ね、橘君。ちょっときてもらえるかな」

 「いいですけど、どこへ?」

 「こっちこっち」

 「校舎は今日は生徒は入れないんじゃ……」

 「ふふ、こ、れ」

 「あ、もしかして」

 「うん、さっき七咲から預かった鍵。おでんの屋台の準備をするために借りていた
 校舎の鍵なんだ」

 「なるほど」

 「えっと…… うん、ここでちょっと待ってて」

 「(ここは……先輩のクラスか)」

 「(ちょっと待っててって、塚原先輩はなにをしようとしているんだろう)」

 「(わざわざこんなところにまで来るってことは、みんなには見せたくないような
 ことなんだろうな……)」

 「お・ま・た・せ……」

 「あ……」

 「どう……かな? これが今年作った自分用のサンタ衣装」

 「で、でも、サンタ衣装は途中で作るのをやめたって……」

 「完成させて着てみせたら君がよろこぶかな……って思って、急いでなんとかしたんだ。
 どう? 似合ってる……かな?」

 「……」

 「も、もしかして似合ってない?」

 「……」

 「い、一応自信作なんだけどな……」

 「……塚原先輩、なんでミスサンタコンテストにでなかったんですか。こんな完璧な
 衣装があるなら森島先輩といい勝負ができたかもしれないのに」

 「ううん、これを着てみせる相手はたった一人。君にだけ……ね」

 「塚原先輩」

 「あ……」

 「こんな格好だと身体が冷えちゃいますよ」

 「ううん、大丈夫。君がとても暖かいから」

 「塚原先輩」

 「……2人でいる時は名前で呼んでくれるとうれしいな」

 「えっと、ひびき……先輩」

 「先輩は余計だよ」

 「じゃあ……ひびき」

 「うん」

 「ひびき」

 「うん」

 「ひびきっ」

 「……好き。君のことが大好きだよ」



エピローグ そして時は流れて

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