アマガミ 響先輩SS 「エピローグ そして時は流れて」


 あの創設祭の日から3年。

 ちょっとした感情の行き違いやすれ違いもあったけれど、私が彼を好きなことに
変わりはない。

 それは彼も同じようで、結局私たちはお互いがお互いの一番のファンであり、もっとも
頼れる存在なのだと思う。

 彼は私を一番理解してくれる人で、彼に言わせると私は彼をどこまでも包み込む存在……

 ふふ、お互い様なんだなって思う。


 「ごめんごめん、実習が長引いちゃって」

 「もう、遅いぞ、ひびき」

 「塚原先輩。お疲れ様でした」

 「はい、メニュー。なに頼む?」


 大学のすぐ近くにあるファミレス。

 集まったのは、彼と私とはるかと七咲。

 こうして集まっては高校の時と同じように色々な話に花を咲かせている。

 4人がけのBOX席。

 私の目の前にはるか、その隣に七咲。

 私の隣に……彼。

 あの時のように不安に駆られることはもう、ない。

 はるかや七咲とにこやかに話す彼を見て、寂しく思うこともない。

 彼が私に自信を与えてくれたのだから。


 「そう言えば、進路どうするか聞かれたんだって?」

 「そうなの。ゼミの教授が、もう3年も残り少ないのだから、どこの会社を受けるか
 真剣に考えなさい、だって」

 「3年生は大変ですね……」

 「あーもう、逢ちゃんがうらやましいな。ねえねえ、私と代わって!」

 「え、そんな、森島先輩と入れ替わったら、入ったばっかりなのにすぐ卒業じゃない
 ですか」

 「うーん」

 「進路……ですか、あ、その点塚原先輩と橘先輩は将来が見えているからいいですよね」

 「そうね……、無事に国家試験に通れば……だけどね」

 「やっぱり、大学に残ったりとかするんですか?」

 「どうかな? 町医者もいいかなって最近思ってるんだ」

 「大学病院よりも、ホームドクターの方が向いていそうな気がしててね。僕も先輩も」

 「あ、それじゃ開業ってことですよね」

 「そうだね。いつになるかわからないけど。お金もかかるし」

 「そうですか。それじゃ私、今から医療事務とか経理とかそう言う勉強をしておこう
 かな」

 「え?」

 「だって、町でお医者さんを開いたら看護師と受付が必要じゃないですか。今から
 看護は難しいけど、受付くらいならできそうかなって」

 「おいおい七咲、10年単位で先の話になるかもしれないんだぞ」

 「ええ、だからどこかの会社に勤めながら待っていますので、開業する時は声をかけて
 下さいね」

 「ふふ、気の早い話だね」

 「あー、逢ちゃんだけずるいな」

 「それじゃ森島先輩は看護師とか」

 「うーん、それこそ今からじゃ無理じゃない?」

 「ナース姿は似合いそうだけどねえ……」

 「開業か…… いつになるかはわからないけど、できるといいな」

 「そうだね」

 ……

 「○○さん、○○××さん〜 右の診察室にどうぞ」

 「はい、そこに座って下さい。どうしちゃったのかな?」

 「うちの子、昨日から熱が出て下がらないんです」

 「そっか、それはつらいね。うん、それじゃ胸の音を聞くから洋服をまくってくれる?
 うん、そう」

 「はい、それじゃあーんして。うんうん、あー、喉が真っ赤だね」

 「特に心配要らないですよ。最近増えている風邪ですね。お薬処方しますので、
 切れた頃にまたいらして下さい」

 「はい」

 「うん、心配要らないよ。風邪引いちゃってるみたいだからお薬飲んでちゃんと寝て
 いてね」

 「お薬苦くない?」

 「大丈夫だよ」

 「うん」

 「梅原さん、梅原正吉さん、左の診察室へどうぞ」

 「よお、大将」

 「よお、じゃないよ。どうしたんだ?」

 「いや、ちょっと最近この辺が痛むんだよ」

 「この辺?」

 「そうそう」


 「プルルルル……」

 「はい、橘内科小児科医院です」

 「……」

 「はい、今かわりますね。ひびき先輩……じゃなかった、ひびき先生。森島先輩から
 お電話です」

 「もしもし、どうしたの?」

 「あ、ひびき? ねえちょっと教えてもらえないかな。心療内科ってなに?
 今日会社の管理職研修で話題が出たんだけど、よくわからないのよ」

 「帰りに寄れる? うん、遅くなっても大丈夫だから」

 「助かるー。それじゃまた後でねっ」

 「森島先輩?」

 「うん、心療内科って言っていたから会社のメンタルヘルス関係じゃないかな」

 「先輩も大変だなあ」

 「そうだね」


 ファミレスで町医者になるという話をしてからずいぶん時間が過ぎてしまったけど、
私は彼と結婚し、先日念願の開業にこぎつけることができた。

 ”橘医院”

 内科を彼が、小児科を私が担当している。

 ご近所のホームドクターと胸を張るにはまだしばらくかかると思うけれど、彼と2人で
力を合わせてがんばっていきたいと思う。

 これから先のことを考えると、期待と不安が入り交じるけれど、きっとなにがあっても
大丈夫。

 私の隣には彼がいるのだから。




アマガミSSのページへ戻る