エスペラントでは新しい事物を表す語はどうやって作るのか?
新しい事物、制度、思想などをどう表すか、という問いですが、基本的には日本語での方法と同じです。特にエスペラントの場合、接頭辞・接尾辞などを活用します。エスペラントでは、品詞により語尾が決まっている(例:名詞はo)ことにご注意下さい。これは、新しい事物だけでなく、諸民族に特有な事物を国際的に紹介する際にも当てはまります。
なお、これはザメンホフの示した基本文法の第15条をもとにした方法です。
●原則1: その物の概念(機能、内容、要素、経緯など)を表す要素を集めて作ります。
概念 日本語 エスペラント
・月に着く 月面着陸する surluniĝi (=sur+lun+iĝ+i)
sur = 〜の(面)上に
lun = 月
iĝ = 〜に成る
i = 動詞の語尾
●原則2: 既に外国語(原語)で、(例えば原則1によって)作成された概念を意訳します。
原語 日本語 エスペラント
・atomic bomb(英語) 原子爆弾 atombombo (=atom+bomb+o)
atomic = 原子の atom = 原子
bomb = 爆弾 bomb = 爆弾
o = 名詞の語尾
・atomic bomb disease 原爆症 atombomba malsano
disease = 病気 a = 形容詞の語尾
malsan = 病気
・mouse マウス muso
(原義:ネズミ) (パソコン入力用) (原義:ネズミ)
●原則3: 既に外国語(原語)でそれを表す単語があれば、音や綴りをまねします。
ただし、その文字、発音はエスペラントの体系で表されます(例:x は ks 表記)。
なお、科学技術関係の術語はギリシャ語・ラテン語をもとに作られることが多く、
エスペラントもそれを取り入れます。
原語 日本語/英語 エスペラント
・jazz(英語) ジャズ ĵazo
・俳句(日本語) haiku hajko
・robota(チェコ語) ロボット/robot roboto
・xylitol(欧州諸語) キシリトール ksilitolo
・Myanmar ミャンマー(国名) Mjanmaro
●原則4: 原語での短縮語、略語などをもとにします。
エスペラントの短縮語などにあわせる場合もあります。
原語 日本語 エスペラント
・AIDS(英語) エイズ aidoso
= Acquired = 後天性 = Akirita
Immuno- 免疫 Imun-
Deficiency 不全 Deficita
Syndrome 症候群 Sindromo
(文字 D は do と読む)
・euro(欧州諸語) ユーロ eŭro
関連1: 「誰がそういった新しい単語を作るのか?」
何かを表現しようと思ったエスペランチストはだれでも、自分の著作にそれを試しに使うことができます。その内、徐々に新しい単語や表現が定着していきます。
なお、その過程で、辞書編集者が新しい単語を収録したり、時には自ら提案して、定着に大いに貢献します。これは日本語でも同じです。
また Akademio de Esperanto(エスペラント・アカデミー)という機関があって、ここである程度定着した語については、用法を確定することも行われています。
関連2: 「だれでも作れるとすると、違う形の単語が流通しませんか?」
一時的には流通することがあります。その内、多くの人が使う形が定着していきます。
○例1: 表記のゆれ
病気のエイズ (AIDS) ですが、一時は aidoso の他に aideso という形も見られました。これは、Akirita Imun-Deficita Sindromo (後天性免疫不全症候群)のことですが、頭文字を並べるとA-I-D-Sで、ds は「ヅ」という1音にはならず、そのままでは続けて発音しにくいのです。そこで D のところの2字(DEficita の DE)をとった案も出ていました。その後、A-I-D-S をアルファベットとして読むと、a-i-do-soとなるので、それを棒読みした形でが主流となりました。
○例2: 合成語(意訳)か音訳か
「原則1ないし2の造語」か「原則3の造語」かという問題です。例えば、「等高線」は「高さ(水準)の線」という合成語の nivel-linio か、ギリシャ語で「等しい高さ」を意味する語から来たizohipso か、などです。エスペランチストの間でもいろいろと議論があります。
○例3: 意味の特化
polucio は、初めはフランス語などの pollution から来て、もっぱら医学用語の「夢精」を意味していました。その後 pollution が「公害、環境汚染」の意味に使われるのにしたがい、エスペラントでもその意味で使われ始めました。その後、両者を分けた方がよいとの考えで、poluo という語が使われだし、polucio = 夢精、poluo = 公害、環境汚染という住み分けが最近では多くなっています。
記: 柴山純一