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志保ちゃんクイズ

 

「あー もうわけわかんねー」
「浩之ちゃん、どうしたの?」

「お、あかり、ちょうどいいところに来た。ちょっと教えてくれないか」
「えっ? うん、わたしでわかることならいいよ」

「さっき廊下を歩いてたら志保に出くわしてよ。あいつオレの顔を見るなり
 『志保ちゃんクイズー』とか言ってクイズを出してきたんだ」
「クイズ?」

「ああ、クイズだ。あいつ『このくらいはちょちょいっと解けてあたりまえよねー』とか
抜かしやがってな、オレも頭にきたから、こんなのはアッという間だ、っていっちまっ
たんだ」
「ふーん、それでどんなクイズなの? いつまでに解けばいいの?」

「期限は大負けに負けて今日の夜だと。学校にいる間にわかんなかったらピッチにかけて
きてもいいとか言ってた」
「えっと、今昼休みだから、時間は大丈夫だね」

「まあな。で、クイズのほうなんだけど、ある真っ暗闇の部屋に入るとこんな言葉が
聞こえて来るんだそうだ」
「この言葉が何を示しているか答えればいいのかな?」

「そう言うこと。さっきからずっと考えてんだけど、さっぱりわかんねーんだ」
「ちょうどそこに私が通りがかったんだね」

「ああ、あかりならわかるんじゃないかと思って」
「うーん…… ちょっとこれ、読みあげるね」

「わざわざ読み上げなくてもいいんじゃねえの?」
「ふふ、こう言うのは口に出してみると意味がわかりやすくなるんだって」

「へー 誰がそんなこと言ってたんだ?」
「雅史ちゃん。お姉さんに教わったんだって」

「千絵美さんか、あの人もいろんなこと知ってるなあ」
「ほんとだね」

「よし、あかり、そしたら読み上げてみてくれ」
「うん。それじゃ、読むよ。

  今見えるものは前のもの 明日に失われようとも 汝はそれに気付かない
  どんなに長い樹の棒と どんなに丈夫な網でさえ 彼らを掴むことはない
  どんなに早い馬でさえ どんなに素早い鳥でさえ 彼らに追いつくことはない
  遥か彼方の遠き地で 彼らは命を燃し続ける いつ尽きるとも知れぬ 眩しい炎を
 」

「どうだ? なにかわかったか?」
「んー わかるようなわかんないような……」

「だろ? まずもって、一番始めからわかんねえんだ。今見えてるものは目の前にある
ものって、当たり前だろ?」
「うーん、そうだね。でもさ、目の前に見えてるものが明日なくなっちゃたら、普通
気付くよね?」

「ああ、だからわけわかんねえ」
「うーん」

「かと思ったら、脈絡もなしに棒と網が出てくるし」
「長い棒と網を使っても掴むことができなくて、早い馬でも素早い鳥でも追いつけない
くらい速いもの……」

「まったくよ、問題出した志保もホントは答えを知らないんじゃないだろうな」
「意外とそうかも知れないね」

「実は志保もこの問題出されてわかんなくて、明日の朝までに答えるとか苦し紛れに
いっちまったもんだから、それをオレに解かせようとか言う魂胆かもな」
「うーん、それはどうかわからないけど」

「で、なにかわかりそうか?」
「遠くの方で命を燃やす……」

「無理して考えなくてもいいぞ。時間はまだあるんだしな」
「浩之ちゃん、他になにかヒントはなかったの?」

「いや、その言葉そのものと、その言葉が暗い部屋に入ると聞こえてくるっていうの
だけだ」
「その暗い部屋って、真っ暗な部屋?」

「ああ、そういや天井と壁の高いところが所々光ってるって言ってたな」
「やっぱり」

「なにが、やっぱりなんだ?」
「クイズの答え。その部屋自体がヒントなんだよ」

「おまえわかったのか?」
「なんとなくだけど。そう考えると言葉が全部説明できるし」

「へー すげえな」
「そんなことないよ。たまたま気がついただけだよ」

「よし、そしたら答え教えてくれ。志保の鼻をあかしてやる」
「しょうがないなあ、ホントは浩之ちゃんが考えなくちゃいけないことなんだからね」

「へいへい、次にこういうことがあったらちゃんと自分で考えるよ」
「答えはね……」
 
 
 
 
 

「おはよう、浩之ちゃん」
「おーっす」

「昨日の答え、アレであってたのかな?」
「さあな。結局志保は学校で捕まらずじまい、ピッチにかけたら”それよそれ! これでクリアーだわ!”って驚いたような声上げていきなり切りやがったからな」

「そっか、じゃああってるかわからないんだね」
「かなり当たりっぽいけどな。自信あるんだろ?」

「自信って程じゃないけど、多分あってると思うよ」
「なあ、あれがどうして”星”を指してることになるんだ?」

「えっとね。星ってずっと遠くにあるから、今見えてる光って実は何百年も前の光だって
言うよね?」
「理科かなんかの授業でやった気がするな」

「それで、”今見えるものは”から”それに気付かない”までが一括りって考えると」
「今見えてる光はずっと前の光で、明日星がなくなっちまってもそれがわかるのは
数百年先、ってことか?」

「うん。そのとおり。さすが浩之ちゃんだね」
「おだてるなよ。じゃあ、樹の棒と網は?」

「これも授業で習ったと思うんだけど、昔の人は天に星が張り付いてるんだって思って、
高いはしごに登って樹の棒でそれを落とそうとしたり、虫取り網で取ろうとしたりしたん
だって」
「へー そういや教科書のそんな絵に落書きした覚えがあるな」

「浩之ちゃん、寝てるか落書きしてるかどっちかだもんね」
「人聞きの悪いこと言うなよ。睡眠学習も学習のうちだ」

「もう、しょうがないなあ」
「で、馬と鳥は?」

「樹の棒で星を落とそうとした時代って、中世なんだけど。あのころ一番速かった乗り物
は馬なんだ」
「馬と同じくらい素早いのが鳥か? でもそれがどう星に結びつくんだよ」

「ふふ、夜空を見上げながら歩くと、どれだけ歩いても月や星ってついてくるように
見えるよね?」
「ああ」

「逆に月や星を追いかけても追いつけないでしょ?」
「そりゃあ空の向こうだからな…… あっ」

「そういうこと」
「じゃあ、最後の命の炎って言うのはどういう意味だ?」

「星って太陽と一緒で自分が燃えて光を出してるって習ったよね? 浩之ちゃん」
「遥か彼方……宇宙の遠いところで自分を燃やし続けるもの……」

「星の寿命がいつ来るかなんて、私たちにはわからないよ」
「だから、いつ尽きるとも知れぬ、か」

「ね? ちゃんと説明つくでしょ?」
「ああ、恐れ入った。しかし、あかりみたいにものを知らないと解けないっていうんじゃ、
オレには一生解けないぜ」

「そんなことないよ。浩之ちゃんだってちょっと気がつけばすぐわかったと思うよ」
「そうか?」

「うん。それに」
「それに、なんだ?」

「このクイズにはおっきなヒントがあったんだよ」
「ヒント?どこにだ??」

「この言葉ってある部屋に入ると聞こえてくるんでしょ?」
「ああ、真っ暗闇で天井と壁の高いところが所々光ってる部屋って話だな」

「うん、ヒントはその部屋そのものなんだよ。きっと」
「部屋そのもの?」

「うん。その部屋、中がプラネタリウムみたいになってるんじゃないかな?」
「プラネタリウムって、星座を映し出すあれだよな?」

「うん、映し出されてるのは、答えそのもの」
「なるほどな…… オレはてっきり小さい窓でもあって光が差し込んでるのかと
思っちまった」

「所々って言われたら、普通はそう思うよね」
「まったくだ」
 
 

「あ、浩之ちゃん、あれ志保じゃない?」
「お、まさしくヤツは志保」

「なんだかフラフラしてるね」
「大方夜更かしでもして寝不足なんだよ」

「そう言えば、新しいゲーム買ったって言ってたよ」
「んじゃ、間違いないな。寝不足でフラフラしてんだ」

「もう、志保ったらしょうがないな」
「よーし、あってたかどうか聞きに行くぞ、あかり」

「うん!」
 

fin20000517
 
 
 

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  拙作ご覧頂きありがとうございました。
 このお話は「リーフ図書館」にて行われたお題SS『会話文のみのSS』に
 投稿したものを、若干手直しして再録したものです。

 『会話文のみのSS』と言うお題は、以前智波さんのページで行われていた
 競作SSの時に、理奈&英二で書いたことがあるんで、今回はあかり&浩之の
 お話にしてみました。

 いかがでしたでしょうか?
 ご意見ご感想ありましたら教え下さい。
 
 20000930 手直しして再録


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