「いやー 釣れた釣れた。大漁大漁」
「途中まではどうなっかと冷や汗もんだったけどな」
朝から相棒と釣りに出かけたものの、今日は昼過ぎまでスカばかり。
いやまったく、一時は坊主かとあきらめたけど、粘ってみるもんだな。「しかしあれよー 不思議だな。帰ろうとあきらめたら来だすんだから」
「そうだなあ、ほれ、ちょうど潮が変わったんだな。潮が」
そうそう、ついてたちゃーついていたんだな。今日は。
来だしてからは入れ食いで、クーラーがはち切れそうだかんな。「いやいや、毎回こうだといいんだけどよ」
「そうそううまくはいかねえよ。ま、今日はちょっくらついてたみたいだな」
いいことは続かねえ。釣りも人生も、ま、そんなもんだ。
でもまあ、今日は祝杯でもあげっかな?「そいじゃあよ、またいこうな」
「ああ、かみさんによろしくな」
道の途中で相棒と別れた。家までもうちっとだ。
クーラーが重てえが、威張って帰れるからそんなに気にもならねえな。陽の傾き始めた空を見ながら歩いてると、向こうに女の子の姿が見えた。
坂の下の床屋さんとこの椎那ちゃんか。
ほうき片手に店の前の掃除だな、いつも感心だねえ。
よし、ちょっくら声かけてみっかな?「よっ 椎那ちゃんいつもご苦労さんだね」
「こんにちは。今日は風が強いからこまめにやってるんです」
そうそう、今日は朝から風が強かった。お陰で食いが悪かったんだよな。
気がつくたびに掃除か… そういやちょうどいいご褒美があるじゃねえか。「ん〜 えらいねえ。よしっ 今日釣れたこいつ、ご褒美だ」
「え!? こんなに立派な魚をですか? そんな、申し訳ないです」
ん〜 相変わらず可愛いねえ椎那ちゃんは。
うちのガキ共もこれくらいかわいきゃいいんだけどな。「いーからいーから、とっときな。遠慮なんかすることないよ」
「いえ、でも、いつも頂いてばかりですし……」
椎那ちゃんとここのマスターにはガキも含めて世話になってるからよ。
このぐらいじゃ割りにあわねえかもしんねえけどな。「オレっちがいいってんだからいいんだよ。ま、だまって受け取ってくれや」
「……(こく)」
ようやっと受け取ってくれたか。遠慮なんてしなくていいのによ。
これでロボットってんだから、世の中ってえのはわかんねえな。「うちのガキ共に椎那ちゃんの爪の垢煎じて飲ませてえくらいだよ。
ロボットにしとくにゃ惜しいねえ。まったく……」
やれやれまったくだ。
当の本人は気づいちゃいねえが、実際この界隈にゃあファンも多いんだよな。「んじゃ、マスターによろしくな。それでうまい刺身でも作ってやんな」
「あ、はい! ありがとうございます」
そうそう、その笑顔が見たかったんだ。
これで気持ちよく家に帰れるってもんよ。夕日を見ながら坂をあがる。
久々にいい気分だな。
椎那ちゃんの笑顔が見れたか……
たまにゃいいこともある。釣りも人生も、ま、そんなもんだ。fin990407
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拙作ご覧頂きましてありがとうございます。
椎那のお話の番外編その3になります。
このお話は無限夜桜管理人の桜木さんのふとした一言を元に
書いたものです。
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ではまた。 ちひろ