「セリオ、買いました4 〜ポニーテールが好きなわけ〜」
by◆ChibisA2
唐突だが、うちのセリオの髪型はポニーテールだ。
赤く長い髪を高い位置でゆわき、淡い黄色のリボンをつけている。
購入してしばらくは買ったまんまのロングヘアーだったのだが、オレが頼んでポニテにしてもらっていた。
赤い髪にリボンが映え、白いうなじが強調されている。
文字通り馬の尻尾のように垂れ下がった髪の毛が歩くたびにゆらゆらと揺れ、オレの目を楽しませてくれる。
ああ、なんと素晴らしいことか。
セリオにお願いしてよかった。
オレは心の底からそう思った。
ある日のこと。
オレがコタツに突っ伏して、にへら〜とセリオのポニテを眺めていると、目の前にちびすけ――ちびセリオがやってきた。
ご丁寧にこいつまでポニテ。
オレは別にちびには頼んでいないのだが、セリオと一緒がいいのか、セリオと同じように高い位置で髪を結わきおそろいの淡い黄色のリボンをつけている。
ちびすけはオレの顔を覗き込むとこんなことを言った。
「またセリオさんを見てるんですか〜?」
ああそうだよ、と答えるとちびすけは人差し指をあごに当て小首を傾げながらこう言った。
「ご主人様ってポニテさんが好きですよね〜 なんでなんですか〜?」
なんでポニテが好きなのか……か。
そこにポニテがあるから。
いや確かにそうなんだけど、それだけじゃなかったような……
あれ?
なんでオレ、ポニテが好きなんだろう。
改めて問われるとうまく説明できない。
なんとなく、だけじゃ説明できないくらい無条件で好きだから、多分理由があるんだろうけど、はて、なんだっけかなぁ?
ちびすけ、おまえわかるか?
「あう、わたしに聞かれてもわからないです〜」
そりゃあそうだよな。
わからないから質問したんだろうし。
「そう言えば〜 ご主人様は高い位置で結わいたポニーテールさんが好きですよね〜 何かこだわりがあるんですか〜?」
ああそう、確かに頭の高い位置で結ったポニテが好き。
ついでに言うとリボンも好きだ。
襟元でまとめたり、低い位置で結ったポニテも好きだが、なんと言っても一番は高い位置に結い上げたポニテ。
これに尽きる。
……でもなぁ、なんでこんなにこだわってるんだろう。オレ。
小一時間ほど考えたが、結局ちびに説明することもできず、自分でも納得できず、もやもやだけが心の中に残ってしまった。
「――それではお暇を取らせて頂きます」
おいおい、それじゃ実家に帰るみたいだから、もうちょっと他の言い方はないのか?
「――それでは…… 行ってまいります」
あー、はい、いってらっしゃい。気をつけて。
数日後、セリオは定期メンテナンスのために家を出た。
来栖川のサービスステーションへ行くのだ。
実家に帰ると言うのはあながち間違いでもない。
オレとちびすけはいつものごとく近くのバス停までお見送り。
何事もなければ向こうで一泊して明日の昼には戻ってくるはずだ。
セリオはちょうどやってきたバスに乗り込むと、一番後ろの窓際に座りオレ達に手を振った。
今生の別れでもあるまいし、と思いつつ手を振り返す。
動き出すバス。
ディーゼルエンジン独特の排気ガスの臭い。
手を振る黄色いリボンをしたポニーテールの少女。
あれ?
一瞬、目の前とよく似た、でも明らかに色褪せた光景がダブって消える。
手を振る少女。
ポニーテール。
黄色いリボン。
排気ガスの臭い。
そんな印象が強くよみがえる。
「ご主人様? ご主人様〜」
頭の上にちびすけの声で我にかえった。
セリオを乗せたバスは、もう見えなくなっていた。
「どしちゃったんですか〜?」
そんなちびの言葉にオレは答えることができなかった。
夢を見た。
夢の中で、少女がオレに手を振っていた。
高い位置で結ったポニーテール、淡い黄色のリボン。
なぜか顔のあたりがぼやけて見えないその少女は、オレに右手を差し出すと「また、会えるよね」と言った。
遊びに行くね、オレはそう答えると彼女の右手を握り返した。
柔らかい手だった。
少女は横に居た女性――恐らく母親――に促されるとバスに乗り、窓際の席に座った。
そして窓越しにオレに手を振った。
排気ガスの臭いとともにバスが動き出し、彼女の姿が小さくなっていく。
手を振る少女。
ポニーテール。
黄色いリボン。
排気ガスの臭い。
オレは腕が千切れるくらい手を振った。
手を振って手を振って、彼女の姿が、彼女を乗せたバスが見えなくなるまで振りつづけた。
ああ、これだったんだ、と納得した。
そんな夢、だった。
目が覚める。
頭が重いようなそんな感じがした。
あの少女は一体誰だったのか。
単に昨日のセリオとの別れ際の光景が夢になっただけなのかもしれない。
それじゃ一体この納得したようなオレの気持ちはなんなのだろう。
「ご主人様、だいじょぶですか〜?」
ちびがオレの顔を覗き込む。
大丈夫だよ、と答えてのろのろと顔を洗い、朝飯を腹に詰め込んだ。
昼近くになって、ちびすけが本棚を指差した。
「あの緑色の本はなんでしょか?」
ああ、あれは本じゃなくてアルバム。
お袋が送ってよこしたんだけど、結局一度も見返したことはない。
確か、オレのガキの頃の写真が詰まっているはずだ。
ちびすけが見てみたいと言うので埃を被ったそれを本棚から取り出して開いた。
「わ〜 ご主人様、今とかわらないです〜」
成長してないってことか?
「そうは言わないですけど〜」
暗に言ってるだろうが。
オレは苦笑しつつぺらぺらとアルバムをめくっていった。
ちびはなにが面白いのかアルバムに見入っている。
ぱら、ぱら、ぱら……
ん?
とあるところでオレの手が止まった。
そこに、高い位置で結い上げたポニーテールに淡く黄色いリボンをつけた少女が居た。
オレとその少女が並んで笑っている写真だった。
楽しそうな顔をした2人の写真が何枚も何枚もアルバムに貼ってあった。
……思い出した。
その少女が誰であるかを。
なんで忘れてたんだろう?
彼女はオレの家の近所に住んでいた、いわゆる幼馴染だった。
ガキの頃、毎日毎日、陽が暮れるまで一緒に遊んで回った仲だった。
ある日急に引っ越すと言い出して、バス停まで見送りに行って、そして……
あれ?
そして、どうしたんだ?
彼女が「また、会えるよね」と言ったのは覚えている。
オレが「遊びに行く」と答えたのも覚えている。
そのあとのことが思い出せない。
結局どうしたんだっけ?
あれれ?
「もう会えないの」
「なんで?」
「もう会えないのよ」
「どうして? どうして。お母さん。僕、約束したんだよ。遊びに行くって約束したんだよ」
「どうしても。どうしてもダメなのよ」
そんなやり取りがよみがえってくる。
なんだろう、この不安な気持ちは。
昔、幼馴染が居た。
その子はポニーテールで淡く黄色いリボンをしていた。
その子はある日突然バスに乗って行ってしまった。
排気ガスの臭いを残して、行ってしまった。
そして、その子と会うことは二度となかった。
そう、それだけの事のはずだ。
なのにこの漠然とした不安感は一体なんだろう。
大事なものがなくなってしまうような、もう戻ってこないような不安な気持ちは一体なんなのだろう。
どんどん大きくなっていくこの気持ちを、どうすればいいんだろう。
カチャ。
玄関で音がした。
「――ただいま戻りました」
セリオの声だった。
オレは弾かれたように玄関に向かうと、お帰りも言わずセリオを抱きしめた。
「――マスター、どうなさったのですか?」
いつもと全く変わらない様子でセリオが問い掛ける。
オレはいつもよりもきつくセリオを抱きしめた。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
ぽろぽろぽろぽろと涙があふれてほほを伝った。
なんで泣いているのか自分でもわからなかった。
ただ、安心感だけが心の中に満ちていった。
「――……」
セリオは抱きしめられたまま何も言わず立っていた。
そして泣き崩れるオレを支えるように座ると、オレの気持ちがおさまるまでずっと背中をさすりつづけてくれた。
「――そうだったんですか」
まあ、ね。
今にして思うと、オレがショックを受けないようにお袋なりに考えたんだろうな。
まあ、なんにせよ、セリオが無事に戻ってきてくれてホッとしたよ。
「――はい、問題となるような個所も特にはありませんでした」
うん、OKOK。
「よかったですね〜」
ちびすけもうれしそうだ。
ぐ〜。
腹の虫が鳴いた。
そういやいい加減腹減ったなあ。よく考えたら昼飯抜きだし。
「――はい、では腕によりをかけて作りますね」
ポニーテールに淡く黄色いリボンをした少女が、オレの目の前で力こぶを作る真似をしていた。
よろしくな、セリオ。
少女に向かってオレはそう笑いかけた。
fin
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たわごと。
調子に乗って4作目です。
もはや支援になってるかも不明ですが、いかがでしたでしょうか?
ポニテ萌え萌え話を書くつもりが、こんな風になってしまったどうしよう
(byぜにがたのとっつあん)
わー、すみません、石投げないで下さい。
相変わらずヘタレで済みません。
あ、そうそう、指摘を頂きましたが、当方あのA2野郎とはなんの縁もゆかりもありません。
たまたまよさげなトリップの末尾に文字が忌むべき2文字になってしまっただけです。
この件で不快になった方、いたらごめんなさいです。