「司令を提督と呼びたい艦娘の会」


 とある日のこと。
 
「英国で産まれた帰国子女の金剛デース! ヨロシクオネガイシマース!」

  おー、と言う声が司令部にあふれた。とある司令部に初めてとなる戦艦の着任だ。
 工廠長がドヤ顔をしている。

「金剛。よく来てくれた。これからよろしく頼むぞ」

  司令が右手を差し出し、金剛とがっちりと握手した。

「HEY!提督ぅー。ワタシがきたからには連戦連勝ヨ」

  金剛がにっこりと笑って差し出された手を握り返した。

「あー、ところでな。金剛」
「ハイ」

  司令が苦笑いしながら金剛にこう返した。

「その、提督というのはなんとかならないか。私はまだ大佐でな。提督と名乗るわけには
いかんのだよ」
「Realy!? そうなんですカ?」
「ああ」

  金剛が困ったように周囲を見回す。苦笑いをする五月雨、やれやれと言うポーズの
 天龍、腕組みして「クソ提督」と唇を動かす曙、困ったような顔をする羽黒。
 彼女たちの仕草は「まあそう言うことらしい」と物語っていた。金剛はこめかみに
 人差し指を当ててなにやら考えていたが、やおら司令に向かってこう呼びかけた。

「HEY! 司令ぃー」
「んんー、……ヤッパリなんだか変な感じネ。でもいいワ」

  そこはかとない違和感にその場にいた艦娘たちから笑い声が漏れ、釣られて金剛も
 笑い、なんでみんなが笑っているかイマイチ理解できていない司令もまた、みんなが
 楽しそうならいいかと笑った。

  後日。「いいから提督って呼ばせなさいよ」と言う曙と、「ヤッパリ提督の方が
 しっくりくるネ」と言う金剛によって密かに「司令を提督と呼びたい艦娘の会」が
 結成され、徐々に司令部に浸透し会員を増やしていったと言うが、それが本編に
 どのような影響を与えたか、真実は闇の中である。

  更に時が過ぎ、司令が提督と呼ばれることを承知した日の午後のこと。

「カンパーイ」
「紅茶で乾杯もないだろう?」
「いいんデース。今日は祝杯ネ」
「思いの外うまくいきましたね」
「五月雨の調べた情報がものを言ったな」
「そうそう、五月雨にしては上出来よね」
「そんなことないです。あれは曙さんがいたからこそで」
「あ、アタシはたまたまあそこでクソ提督と一緒になることが多いから」
「ふふーん、照れなくてもいいデース。さてはLOVELOVEネ?」
「そ、そんなことないわよ。あんなクソ提督、誰が」
「まあまあ」
「これで晴れて提督って呼べますね」
「そうだな。まあ、オレとしちゃどっちでもいいんだが、どうせならかっこいい方が
いいよな」
「はいっ」
「遠征の連中には連絡したのか?」
「もちろんいれておきました」
「ふふーん。今日は帰りに鳳翔さんのトコロへ寄っちゃいますかネ」
「あ、いいですね。それ」

  艦娘の待機室。そこで英国紅茶を振る舞う戦艦と、ちょっと控えめな重巡と、威勢の
 良い軽巡と駆逐艦達がアフタヌーンティーを囲んでなにやらきゃらがましく話をして
 いた。この勢いで残った訓練や雑務をこなし、その後高いテンションのままで鎮守府
 近くの鳳翔の店へなだれ込んだらしい。


fin


あとがき

 金剛と曙が、密かに司令を提督と呼びたかった五月雨を巻き込み、五月雨が天龍を
仲間に引き入れて……と芋づる式に勢力を拡大した秘密結社。それが、司令を提督と
呼びたい艦娘の会、略して……って略しようがないなあ。
 まああれです、おふざけ話です。こんな裏話があったら面白いだろうな、と思ったので
書いてみました。
 楽しんでいただければ幸いです。


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