「とある司令部のものがたり その4 〜オレの名は天龍〜」


「オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

 おー、と言う声が工廠に沸き返った。司令部初の軽巡の着任なのだ。

「どうでえどうでえ。本気出しゃーこんなもんだ」

 鼻高々な工廠長。建造に当てられる資材が少ないとは言え、軽巡ごときで
天狗になってもらっても困るのだが、今までのこの司令部の陣容を考えたら
致し方ないのかも知れない。

「さすが、言うだけのことはある。今夜は祝杯だな」

 横で司令が笑いながらそう言った。

「みんな聞いたか? 今日は司令のおごりだぞ」
「おーーーーーっ」

 工廠長の言葉に工廠の妖精達が応えた。

「いいんですか?」

 五月雨が司令にささやく。

「まあ、いいだろう。これが恒例になられると困るがね」

 苦笑いしつつまんざらでもなさそうな司令。建造のたびに酒保でおごりは
懐に厳しいが、さりとてこれで士気が高まるなら……と言うことらしい。

「天龍型一番艦天龍です」

 天龍が司令の前に来て敬礼をする。

「よろしく頼む」

 司令が返礼する。

「白露型六番艦五月雨です。秘書艦を仰せつかっています。よろしくお願いします」

 五月雨も天龍に礼を尽くす。なにせ司令部初の軽巡なのだ。

「秘書艦と言うことは最古参か。よろしく頼むぜ」

 天龍が五月雨に返礼する。秘書艦という存在を多少誤解しつつも、若干の敬意が
あるようだ。

「早速だが五月雨、天龍に司令部内を案内してやってくれないか」
「はいっ。ではこちらへ」
「ああ」

 五月雨が天龍を伴って出て行く。

「私らはちょっと早いですが酒保で一杯やりましょう」
「そうこなくっちゃ」

 二人を送り出した司令と工廠長は上機嫌で酒保へ向かった。


「ここが私たち艦娘の待機所です。今は訓練のため全員が出払っています」
「全部で何人なんだ? 構成は?」
「私を入れて五人です。全員駆逐艦です」
「そうか……。じゃあオレを入れて水雷戦隊を組めばいいな」
「そうですね。これでようやくしっかりとした水雷戦隊が組めます」
「攻略も進むってもんだな」
「はいっ」

 食堂などをまわり、どんちゃん騒ぎに近い酒保を敢えてスルーして、五月雨は
案内を続ける。最後にたどり着いたのは司令の執務室だった。

「ここが執務室です。普段は司令と私が勤務しています」
「作戦会議はここでやるのか?」
「そうです。と言っても今まで艦娘を全員集めた会議は開かれていませんが……」
「今後あり得るってことだよ」
「はい」

 部屋の中を見回す天龍。その横でなにやら五月雨がごそごそと準備を始めた。

「さて、天龍さん」
「ん? なんだ。」
「これから秘書艦の引き継ぎを行いたいと思います」

 にっこり笑った五月雨が秘書艦の徽章を天龍の方へ差し出した。

「はぁー!? 秘書艦って、それどういうことだ?」

「どうもこうも、天龍さんは軽巡じゃないですか。より上位の艦種が艦隊旗艦と
なるものです。ひいては秘書艦も」

 この人はなにを言っているのだろうと言う顔で、五月雨が小首をかしげる。

「ちょっ、ちょっ、ちょっとまて。秘書艦ってのはあれだろ? 最古参の艦(ふね)
が勤めるものだろう? オレは今日来たばっかりだぞ」
「いえ、いつ来たかなど関係ありません。司令部創設からはや幾数週、他の司令部は
皆さん高位の艦種ばかりで司令も肩身の狭い思いをなさっています。我が司令部に
軽巡は天龍さん一人です。ですから秘書艦も天龍さんなのです。天龍さんにおまかせ、
なのです」
「いいから落ち着け、話を聞け、まだひと月も経ってないだろう、それにおまえそれ
キャラが違うぞ」

 笑顔を浮かべてじりじりと天龍に迫る五月雨。及び腰でずるずると後ろに下がる天龍。

「さあ、さあ、さあ」
「だからマテーーー」

 執務室に天龍の叫び声がこだました。
 

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