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 とある大陸のとある町。
 そこに冒険者達の集う酒場があります。

 あるものはドラゴンスレイヤーの称号を目指して。
 あるものは大陸の恒久の平和を願って。
 あるものは巨万の富を求めて。
 そしてあるものは、肉親の敵を討つために。
 この酒場はそんな様々な事情を持った冒険者が、これまでの冒険談を語りこれからの冒険に思いをはせる。
 そんな場所なのです。

 その酒場の一角。
 いつも決まった曜日のいつも決まった時間。
 いつも決まったその場所に、いつも決まったメンバーが揃います。
 彼らは、時には真剣に、時には笑いながら、そして時には本来の議題を忘れて話に
興じる、そんな冒険仲間です。
 おや?
 今日はどうやら打ち合わせそっちのけでカクテルパーティのようですね。
 機械兵のDDがシェーカーを振るい、様々なカクテルを振舞っています。
 これから語られるお話しは、このカクテルパーティが終わった後のお話しです。
 

   外伝――気付け薬は御入用?――
 

 ちょっと気取ってみんなにカクテルのサービス。
 その後日談を少々、丘牡蠣風味で。

 ふらふら……。
 ……ふらふらぁ……。

 「そんなに飲んだっけか、しーな」

 苦笑しつつ、肩を貸しているしーなに俺は問い掛ける。カクテルをすすめたのは俺
だがあんなに飲むとは想像の範囲外だ。
 ……ま、結果が横でふわふわした顔してるだけに現実なんだろう。

 「酔ってませんってばー」
 「……酔ってる」

 俺から離れたがってじたばたしてるが、俺は離すつもりはない。倒れるのが目に見
えてるからだ。……それを助け起こすのは俺だし、そのあと泥だらけのしーなを担ぐ
羽目になるのも俺だ。

 「一人でも帰れるって言ったのに、なんで送ってくれたんですかー?」
 「その様子で一人で帰れるならほっとく男だ俺は」
 「あははー、さては送り狼さんですねー」

 離して帰ろう。うん。決定。

 「ふふっ、冗談ですよー」

 ……はぁ。あんまり揺らすな、俺の帽子が落ちる。
 

 断っておくが俺はシラフだ。意外かもしれないが、他人に出す酒を作るのにこっち
が酔っ払いじゃ失礼だからな。

 「そこを右で……くー」

 脱力した人間を抱えるのは力がいる。酔っ払って、ましてや眠る人間を抱えるのは
至難の技だ。

 「寝ないでくれ、頼むから」
 「寝てないですよー、右に曲がればすぐですー」
 「右ね……はい右」
 「あははー、ほらー、星が綺麗でしょー?」

 通りを右に曲がると……高い建物の一つもない、空のよく見える通りだった。

 「はいはい……で、次は?」
 「あははー、星が見たかっただけなんですー。さっきの道に戻ってくださいー」

 ……特大のため息が俺の口から吐き出された。他人事のように、しーなと俺はそのた
め息を眺めていた。
 

 「ここで大丈夫ですー」

 と教会の前でしーなが言う。法衣を着た女の子が一人やや眠そうな目をして門番を
しているだけで、他に人の気配はない。

 「一人で部屋まで上がれるのか?」
 「大丈夫ですよー」

 と言われたものの、支えてる腕にはふらふら来る手応えがかなり残る。もちろん不
安も……だから、門番の女の子にしーなの部屋までの案内をお願いする。
 いくばくかのチップを渡そうとしたら頑として断られた。
 通路を右に。清潔そうな壁と床に好感が持てる。……俺の定宿とは雲泥の差だな。

 「こちらです」

 と女の子に案内されたのは、こざっぱりとした部屋だった。見覚えのある武器もあ
るし、ここはしーなの部屋で間違いなさそうだ。
 一つしかないベッドにしーなを寝かせ……寝かせ……っ……!

 「…………!?」

 俺はしーなごとベッドに倒れこんでいた。

 「おい、しーな? おい……しーなさん? お〜いっ」

 ぺちぺちぺち。
 ……返事がない。ただの……っておいっ!

 「ん……」
 「起きてるのか、しーな?」
 「…………すぅ」

 寝てるか……やっぱりなぁ。
 手をしーなから離し、俺のジャケットをしっかり握ってるしーなの手を離……せな
い。無意識の力ってのは相当に強い。今日のところはジャケットを諦めるしかないか。
 上着を脱ぐと寒さをやや感じる。寝苦しいのか上を向いて、無邪気にしーなが寝顔
を見せている。

 「無防備な寝顔さらしやがって……狼に食われても知らんぞ」

 わざと声に出す。だが、相変わらず気持ちよさそうな寝顔は変わらない。……一番
のおーかみさんが寝顔覗きこんでるってのに。
 

   「 DD、一発キめてこいよっ」

   帰りしなのカズの声が妙に響く。
   でも、変な気起こすにゃ綺麗過ぎる、よな……
 

 廊下側の壁をやや強めにノック。

 「お嬢さんがた、みんな興味本意で聞き耳立ててるんだろ?」

 何人かの反応が壁越しにでも伝わってくる。馬鹿正直にも程があるよな、こんなん
じゃ冒険者になったとたんに詐欺師にカモられて終わるぞ。

 「まず最初に言っとく……憶測や願望で俺としーなの噂立てるなよ? 俺はともか
くしーなが迷惑するからな」

 床の帽子を拾い上げて音もなく出口へ。聞き耳少女たちの驚きの表情を尻目に俺は
言葉を続ける。

 「あと、しーなを着替えさせてやってくれ。法衣がしわになったら後が大変だ」

 帽子をお辞儀代わりに軽く持ち上げて、俺は帰り道についた。
 
 

 卵黄を一つ。崩さないように。
 その上からちょっとだけウオッカを足し、ウスターソース、トマトケチャップを同
量。ワインビネガーを二たらし。……すこぶる不味そうだから胡椒は多めに入れて味
をごまかす。

 「ん? ……朝っぱらから気持ち悪い飲み方するなぁ」

 カズが後ろから覗きこみつつ言う。

 「プレイリー・オイスターだ。立派なカクテルのレシピなんだぜ? 気付け薬で二
日酔いによく効くぞ」
 「DD、お前飲んでたっけか?」
 「こんな気持ち悪いのを飲めないお嬢様のためにさ」

 鼻をつまんでぐいっと一気。
 酒場のドアが開いて、頭を軽く押さえたしーなが見慣れた俺のジャケットを持って
酒場に入ってくるのとほぼ同じだった。

                               ...End?
 
 


「しーなのとある一日。」へつづく     リストに戻る。