アマガミ 響先輩SS  「ポンデリングはもっちもちー♪」



放課後、商店街、某有名ドーナツショップ


 「ふふ、なににしようかな」

 「七咲、楽しそうだね」

 「ええ、なにを選ぼうか考えてる時って幸せじゃないですか」

 「ふふ、確かにそうだね」

 「ハニーディップにチョコファッションにフレンチクルーラーか……
 どれもおいしそうだな……」

 「あわてなくてもドーナツは逃げないよ」

 「そうですけど……。あ、塚原先輩はなににするんですか?」

 「……」

 「……先輩?」

 「……あ、ご、ごめん。なんだっけ?」

 「何を食べるんですか?って聞いただけです」

 「え、えーっと、あ、これにしようかな」

 「ポンデリング?」

 「うん、なんだか急に気になっちゃって」

 「おいしいですよね。ポンデリング。じゃあ私も……」


 店内に席を見つけ、食べ始める二人。


 「それで、陸上練習のことなんですが」

 「……」

 「先輩?」

 「あ、ごめんね。ちょっとぼーっとしてた。なんだっけ?」

 「クスッ、塚原先輩にしては珍しいですね。なにか気になることでもあったんですか?」

 「あ、ううん、そんなことないよ」

 「ならいいんです。それで陸上練習なんですが……」


 「あ、もうこんな時間。遅くなっちゃったね」

 「ええ、そろそろ帰りましょう。ありがとうございました。さっきの方法で試してみます」

 「うん、そうしてみて」

 「それじゃあ、トレイを戻して……。ふふ、なるほどそう言うことだったんですか」

 「なにが?」

 「塚原先輩がどうしてぼーっとしていたか、です」

 「え!?」

 「そんなにじーっとポンデライオンのぬいぐるみを見ていればわかります」

 「た、たまたまよ。そんなじーっとなんて見てないから」

 「ふふ、それじゃそう言うことにしましょうか」

 「そ、それじゃ帰ろうか」

 「はい」


 次の日、休み時間。


 「……ということがあったんです。塚原先輩、ポンデライオンの大きいのが
 ずいぶん気になっているみたいですよ」

 「そうなのか……。よし、それじゃドーナツを食べまくってポンデライオンをゲットだ!」

 「ところで橘先輩。ポンデライオンをもらうのにどのくらいドーナツを
 食べる必要があるかわかってます?」

 「え?」

 「あのお店のポイント、結構たまらないんです。ポンデライオンをもらうまでに
 どれだけドーナツを食べたらいいか……」

 「そ、そんなに大変なの?」

 「はい」

 「くっ、なんてことなんだ、せっかく塚原先輩にプレゼントしようと思ったのに」

 「……そうだ。みんなと食べに行って、お金を払う時にまとめて先輩のポイントにすれば
 結構たまるんじゃないですか?」

 「なるほどそうか。七咲、すごいじゃないか。よーしがんばるぞ!」


 それから毎日ドーナツを食べに通った。
 梅原やマサ、ケンと寄り道したときに、彼らの分のポイントをこっちにつけてもらった。
 七咲が水泳部の子達と帰り道によると聞いて、ポイントをもらったこともあった。
 なんの脈絡もなく家にドーナツを買って帰って美也に驚かれたこともあった。
 全ては全ては塚原先輩にボンデライオン(大)をプレゼントするため。塚原先輩の笑顔のため。
 そして今日、ポンデライオン引き替え期間ギリギリの今日、その努力が全て報われるのだ。
 
 一方、3年生の教室では……。


 「……ねえ、はるか」

 「なになに?」

 「最近、帰りに橘君を見かけないけど、どうしたのか知らない?」

 「さあ?」

 「そう……」

 「ふーん」

 「な、なに?」

 「ううん。そっか、ひびきはあの子のことが気になるんだ」

 「そ、そんなつもりで聞いたんじゃないよ。一時期ずっと帰りが一緒だったのに、
 しばらく見ないなって思って……」

 「いいからいいから」

 「もう、はるか、からかわないで」

 「わお、ひびきちゃんが怒った」

 「……まったくもう」


 その日の放課後。


 「(よし、塚原先輩と一緒に帰って、ドーナツ屋に誘うぞ)」

 「(塚原先輩は……、あ、いたいた。部活はもう終わったみたいだな。
 ちょうど1人だし、これはチャンスだ)」

 「塚原先輩!」

 「あ、橘君……」

 「今日は1人なんですね」

 「うん、はるかは用事があるんだって」

 「もしよければ、一緒に帰りませんか?」

 「ふふ、うん、いいよ」

 「やった」


 「それで、七咲が……」

 「へえ、そんなことがあったんだ」

 「そうなんですよ」

 「……あ、そうだ。最近、帰りに見かけなかったけど」

 「あ、ええ、まあ、色々あって」

 「ふうん、そうなんだ」

 「つ、塚原先輩。この後空いてますか?」

 「うん、大丈夫だよ」

 「そ、それじゃ、僕とドーナツ屋さんに寄りませんか?」

 「え?」

 「なんだかおなかが空いちゃって、ドーナツが食べたいなって思って」

 「くすっ、うんいいよ」

 「よかった」

 「ふふ、君って面白いね」

 「なんでですか?」

 「だって、ドーナツ屋さんに寄るくらいでそんなに大げさに」

 「あ、そ、そうですね」


 商店街のドーナツ屋さんに到着。


 「なに食べようかな……、あ、これにしよう」

 「僕は……、これとこれと……」

 「そんなに食べたら、夕飯入らないんじゃない?」

 「大丈夫ですよ。ドーナツは別腹ですから」

 「へー、ドーナツが好きなんだ」

 「ええ、まあ……、最近良く食べてます」

 「ふうん」

 「え、なにか問題あります?」

 「ううん」

 「こっち、席空いてますよ」

 「うん、ありがとう。それじゃ……いただきます」

 「いただきまーす」

 「ふふ、おいしいな」

 「あ、塚原先輩、ポンデリング好きなんですか?」

 「うん、甘くてもちっとしていておいしいよね」

 「(おいしそうにポンデリングを食べる先輩……。なんだかかわいいな。
 それにすごく幸せそうな顔をしている)」

 「ん? どうかした?」

 「あ、いえ、なんでもないです」

 「ん〜ん、ん、ん、ん、ん、ん〜♪」

 「(鼻歌まで……、すごくニコニコしている)」


 あらかた食べ終えた2人。


 「おいしかった」

 「そうですね。でも、塚原先輩って本当にポンデリングが好きなんですね。
 すごーくうれしそうな顔になってましたよ」

 「え!? そ、そう……?」

 「ええ、塚原先輩の意外な一面を発見、って感じです」

 「も、もう、年上をからかうもんじゃないよ……」

 「からかってなんかないですよ」

 「そう?」

 「ええ。あ、そうだ、ちょっと待っていてもらえます?」

 「うん」

 「(よし、この1005ポイントたまったこのカードで今こそ!)」


 レジへ向かう橘さん


 「あ、あの、このポイントでポンデライオンの大きいのを下さい」

 「はい、ポンデライオンのぬいぐるみの大ですね。しばらくお待ち下さい」

 「(な、なんか、周囲の視線を感じるな……)」

 「はい、お待たせしました。ポンデライオン(大)です。かわいがってあげてくださいね」

 「は、はい、ありがとうございます!」


 「塚原先輩、お待たせしました。はい、これ」

 「え!?」

 「ポンデライオンのぬいぐるみ。先輩がすごく欲しがっていたって聞いたから」

 「で、でも、これってたくさんポイントが必要でしょ? 私がもらって……いいの?」

 「ええ、そのために集めたポイントですから」

 「ごめんね。気をつかわせちゃったね」

 「そんなことないですよ。ドーナツ食べるついで、でしたから」

 「でも……」

 「はは、”塚原先輩、塚原先輩こんにちはー。僕、ポンデライオンのポン太です。
 これから先輩が僕のご主人様です。よろしく」

 「……くすっ。うん、ポンちゃん、よろしくね」


 ポンデライオン(大)を自分の鼻先に近づけてじーっと見つめてから、
ギュッと抱きしめてほおずりするひびき。


 「橘君……ありがとう。大事にするね」

 「はい」


 夕暮れ、帰り道。


 「ポーンデリングはもっちもちー もっちもちー もっちもちー♪」


 ポンデリングの歌を口ずさむひびき。
 店を出てからずーっと笑顔。
 周囲の目も気にせず、ポンデライオン(大)を胸に抱いている。


 「よかった、よろこんでもらえて」
 
 「うん、ポンデライオンかわいいね。私、ずっとお店の棚に飾られてるこの子が
 気になっていたんだ」

 「はは、がんばってドーナツを食べたかいがありました」

 「……」

 「塚原先輩、どうしたんですか? 僕の方をじーっと見てますけど」

 「……だからなんだね」

 「え?」

 「君が前と比べてぽっちゃりしたような気がしていたんだけど……。そうだよね。
 この子の分のポイントを貯めるだけのドーナツを食べたらぽっちゃりにもなるよね」

 「ええ!? ぼ、僕太りました??」

 「うん、ほら、ここしばらく顔を見なかったでしょ? その前と比べたらかなり……」

 「ええーー!?」

 「ドーナツって油で揚げているから思った以上にカロリーが高いんだよ」

 「そ、そうだったんだ……。最近階段を上がると息が切れるのは……」

 「そのせいだと思うな」

 「ど、どうしよう。ダイエットしなくちゃ」

 「ね、一緒に市民プールに泳ぎに行かない? 水泳は全身運動だから、しっかり泳げば
 ダイエットに効果あるよ」

 「す、水泳ですか?」

 「うん、ポンちゃんのお礼に、元の体重に戻るまでしっかり面倒見るから」

 「(塚原先輩とマンツーマンで水泳の指導……それも体重が戻るまで何度も……
 こ、これは、これはなんと言うごほうびなんだ。すごい、すごいぞポンデライオン(大)!)」

 「どうかな?」

 「は、はい、よろしくお願いします!」

 「うん、それじゃ今度の日曜日からね」

 「ふふ、がんばろうね」

 「はい!」


 塚原先輩にポンデライオン(大)をプレゼントした。
 ポンデライオン(大)を抱える塚原先輩の横顔……すごくうれしそうだった。
 プレゼントしてよかったな。
 よし、水泳でダイエット、がんばろう。


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このお話は、ひびきスレにひびき先輩の誕生日SSとしてアップしたものの再録です。
やっぱり誕生日SSの一つもないと盛り上がらないよなあ、と思っていたら
ポンデリング関連のレスがいくつか続き、それを見ていたら頭の中で
「だらだら毎日」のとぽすけさんの「ぽーんでりんぐはもっちもちー♪」なお話が
再生され、これだ! と閃いたわけです(笑)



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