アマガミ 響先輩SS 「流星群を見よう」




 夜。TVから流れるアナウンサーの声。


 「8月12日はペルセウス座流星群の極大日ですね」

 「今年はちょうど新月に当たりますから、ちょっと郊外に行けば一時間に数個の流れ星を期待できそうですよ」

 「そうですか。楽しみですね」


 そのTVをソファに寝そべりながら見ていたはるかが何かを思いついたように身体を起こした。


 「流星群、かぁ……星空の下で流れ星に願い事をするなんてすごく素敵じゃない。うんうん、これはひびきに教えなくちゃ」

……

 「流れ星?」

 「そう、流星群なんだって、一時間に何個も流れるからお願い事もし放題よ」

 「はあ、はるかの目当てはそれね」


 電話の向こうで軽くため息をつき苦笑するひびき。
 同時に、はるからしい、とも思う。


 「なにをお願いするつもりなの?」

 「ふふーん、それは内緒」

 「内緒……ねえ」

 「わたしの願い事はどうでもいいのよ。ね、ひびき。一緒に流れ星を見ない?」


 よほど気になるのだろう。はるかがたたみかける。


 「流れ星を?」

 「そう。ほら、二人で見に行けばきっと願いも2倍叶うと思うから」

 「二人で行ったからと言って二倍になるとは限らないと思うけど…… それにどこで見る気?」

 「ちょっと郊外に行けば見れるって言ってたわ。大学のグランドとか高校のグランドならバッチリじゃないかしら」
 
 「くす、どっちにしてもグランドなのね」
 
 「あ、べ、別にグランドにこだわる訳じゃないのよ」
 
 「はいはい」
 
 「あ、そうだ。橘君や美也ちゃんや逢ちゃんも誘ってみんなで流れ星を見てお祈りするのはどう?
 願いが叶いますようにって。なんだか素敵じゃない?」

 「それはそうね……」


 橘さんの名前が出てきて、ちょっとだけ気持ちがぐらつくひびき。


 「ね、はるか。それいつだっけ?」

 「え? えーっと、8月12日ってTVで言ってたわ」

 「8月12日は……。あ、ごめん。その日は水泳部の合宿が入ってる」

 「えー。そんなぁ」

 「ごめんね」

 「ちょっとだけ抜けてくるとか」

 「大学でやる訳じゃないから、無理よ」

 「うーん」

 「流星群はそれだけじゃないでしょ? 別の機会につきあうから。ね」

 「残念……。しょうがないな、それじゃあひびき抜きで見に行こうかしら」

 「え?」

 「ひびきちゃんは水泳部の合宿だから仕方ないとして、他のみんなで見に行けばノープロブレム」


 はるかはどうしても流星群が見たいようだ。


 「ちょ、ちょっとはるか。待ちなさい。彼もいないわよ」

 「え? そうなの??」

 「うん、彼は予備校の合宿。七咲は水泳部の練習があって、美也ちゃんは田舎へ行くって言ってたわ」

 「えーっ。そんなのずるい」

 「ずるいって言われてもね……」

 「もう。大体なんでひびきが逢ちゃんや美也ちゃんの予定まで知ってるのよ」

 「そりゃあ……ねえ」

 「なにが、ねえ、なのよ」

 「美也ちゃんは彼の妹だし、七咲はこの間美也ちゃんと一緒に勉強会をしたから……なんだけど」

 「ちょっと待って、勉強会なんてそんな話聞いてないわ」

 「聞いてないって、そりゃあはるかを呼ぶような話じゃなかったし」

 「ずるーい」

 「ずるいって言われても……」

 「ずるいずるいー」

 「小学生がおもちゃ売り場でだだこねてるみたいよ」


 電話越しのひびきの目には、にはもしかするとはるかがソファに座って足をジタバタしている
光景がまざまざと見えていたのかも知れない。


 「私だってレポートの一つくらいあるんだから。呼んでくれればみんなとそれができたのに」

 「そう言われてもね」

 「ふーんだ、ひびきちゃんのけちんぼ。いけず。鉄面皮」

 「……はるか、今聞き捨てならないことを言わなかった?」

 「さ、さあ?」

 「……はあ、まあいいわ。そういうことだから、今度の流星群は勘弁して。流星群はそれだけ
 じゃないでしょう?」

 「むむむ」

 「あ、そうだ、合宿に行ったらおみやげ買ってくるけど、なにがいい?」

 「むむむー」

 「はるか、まだ拗ねてるの?」

 「だって、ひびきちゃんは合宿なんでしょう? 確かどこかの高原だって言ってたじゃない」

 「そうだけど……それが?」

 「高原だったら星がよく見えるはずだから、流れ星も見放題ってことでしょう?
 ひびきばかりずるいわ」

 「合宿中に星を見てる余裕なんてないわよ」

 「むむー」

 「合宿から帰ってきたら、はるかが行こうって言ってたダッ君ショップにつきあってあげるから」

 「……」

 「おそろいのダッ君グッズを買ってもいいかなあ……なんて思ってるんだけど」

 「……本当?」

 「うん。なんなら、美也ちゃんも誘ってみる? 友の会のメンバーなんでしょう?」

 「うんうん。そうね、どうせ行くなら友の会を招集しなくっちゃ」


 ようやくはるかの機嫌が直ったようだ。
 ひびきがはるかにわからないようにほっと息をはいた。


 「それで、その流星群って何時くらいに見えるの?」

 「えっと、真夜中から明け方にかけてだってテレビで言ってたわ」

 「そうなんだ、夜中か……」

 「ふふーん」

 「な、なに?」

 「やっぱりひびきも気になるんじゃない。ね、なにをお願いするつもり? やっぱり橘君と
 仲良くできますように、かな」

 「ちょ、ちょっと聞いてみただけよ。言ったでしょう? 合宿中に星を見てるほど余裕はないって」

 「朝から夜までずっと泳いでいる訳じゃないでしょ? ちょっとくらい夜更かししても大丈夫よ」

 「どうかしらね……」

 「ねえ、ひびき。もし星を見る暇があったら私の分もお願いしておいて」

 「え? あ、うん、いいけど……。一体なにをお願いするの?」

 「それは内緒」

 「内緒って、それじゃあお願いできないでしょう?」

 「あ、そっか」

 「まったくもう……」


 結局、また流星群があったら次こそはみんなで一緒に見る、ダッ君ショップにみんなで行く、
はるかの分まで流れ星にお願いをすると言うことで、はるかは今回の流星群をあきらめたの
だった。

 電話を切ったひびきは一人こんな風につぶやいた。


 「なんだか随分高くついた気がする……」

 「まあ、でもいいか。はるかはあれで納得したみたいだし」

 「流星群か…… 高原なら星もよく見えるだろうし、ちょっとだけ期待しようかな」

 「ちょっとだけ。くたくたでそれどころじゃないだろうから、本当にちょっとだけ」

 「なにをお願いしようかな」


 水泳漬けと思っていた合宿に別の楽しみを見つけたひびき。
 願い事を真剣に考えている自分に気づいた彼女は


 「らしくないよね」


 と笑うのだった。




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