アマガミ 響先輩SS「橘家にて」



 ピンポーン、ピンポーン
 3月も下旬。
 そろそろ桜の声が聞こえてきそうなそんな時期。
 橘さんちに、玄関のチャイムの音が響いた。


 「はいはいはーいっ」


 美也が玄関へと向かう。
 ガチャっと開けた玄関の向こうには


 「こんにちは、美也ちゃん。彼、いるかな?」


 にっこり笑った塚原ひびきの姿があった。



 「どうだった? イギリスは」

 「天気にも恵まれたし、色々見てまわれたし、楽しかった。
 ふふ、はるかのおじいさんは面白い人だったよ」

 「イギリスかぁ、いいなー。美也も行ってみたいな」

 「今からお金を貯めて、卒業旅行で行けばいいじゃないか……って、美也、
 なんでおまえが当たり前のような顔をしてここにいるんだ?」

 「いたらまずかった?」

 「ま、まずいことはないけど」

 「ならいいじゃん、美也も塚原先輩のお話し聞きたい」

 「聞きたいって……。ひびき先輩が困るとかそう言うことも考えろよ」

 「私は構わないけど?」

 「ひびき先輩がそう言うなら……まあ、構わないけど……」

 「じゃあオッケーだね。にししししっ」


 満面の笑みの美也。
 ちょっとふてくされ気味の橘さん。
 ひびきに会うのは約10日ぶり、みやげ話を聞きながら隙を見ていちゃつこうと言う
魂胆がついえたのだから気持ちはわからないでもない。


 「それで、最初の日は……」


 ひびきとはるかのイギリス珍道中(?)に聞き入る橘さんと美也。


 「……というわけで、結局帰ってくるまでずーっと、いつもみたいにはるかの
 面倒をみてた気がする」

 「も、森島先輩はワールドワイドにあの調子なんだ……」

 「お陰で楽しかったけど、ちょっと疲れちゃったかな」


 ひびきの話も終わり、なんとなくゆったりとした空気があたりを包み込んだ。


 「あ、そうそう、おみやげ買ってきたんだ。えっと、この紅茶はご両親に、こっちが
 美也ちゃんのおみやげで……」

 「え!? 美也にも! うわぁ、ありがとうございます。あの、あけてもいいですか?」

 「もちろん」

 「わぁ、このキーホルダー、可愛いー」

 「気を使わせちゃったみたいですね。ほら、美也もちゃんとお礼しろ」

 「ちゃんと言ったじゃん、ありがとうございますって」

 「大したものじゃないから、そんなに気にしないで」

 「忘れないうちに鞄につけてくるねっ」


 バタバタと自分の部屋に走って行く美也。


 「それで、これが君へのおみやげ」

 「ありがとう」

 「開けてみて」

 「うん。……あ、シャーペンだ。この絵柄は……」

 「ふふ、イギリスの国旗がデザインされているんだ。これから1年、しっかり
 勉強しないといけないし。ちょうどいいかなって思って」

 「ははっ、確かにそうだね。よし、このシャーペンに誓って勉強がんばるぞ」

 「くすっ、今からそんなに気合を入れると1年間もたないよ」

 「それもそうか」

 「でもにぃに、本当に大丈夫? 塚原先輩と一緒の国立大学のしかも医学部なんて、
 すっごく大変だよね?」

 「い、いや、とにかくやることに意義がある。当たって砕けろだ」

 「……なんだか本当に砕けそう」

 「縁起でもないこと言うな」

 「あ、そうだ、塚原先輩が毎日勉強を見てくれたら、にぃにでもなんとか
 なるんじゃないかな」

 「うん、毎日は無理だけど、週末に家庭教師に来るつもりよ」

 「えっ、ほ、本当ににぃにの家庭教師をしてくれるんですか?」

 「うん。だって彼、本気で医学部を受けるって言うから、だったらこっちも本気で
 サポートしなくちゃいけないなって」

 「どうだ美也。なんとかなりそうな気がするだろう?」

 「……うん」

 「くすっ、これから毎週お邪魔するから、よろしくね。美也ちゃん」

 「は、はい、こちらこそ。……そっかあ、塚原先輩が家庭教師に来てくれるんだ」

 「美也、ひびき先輩は僕の家庭教師に来るんだぞ」

 「そ、そんなのわかってるよ」

 「そうか? どうせ美也のことだから ”にししししっ、にぃにのついでにひびき先輩に
 勉強教えてもらおう” とか思ったんだろう?」

 「あ、う、そ、それは……」

 「こーら、そうやって意地悪しないの。もちろん美也ちゃんの勉強のお手伝いもするから
 遠慮なく聞きに来て」

 「ホントですか! やったー」


 こうして、ひびき先輩が週末に家庭教師に来ることになった。
 僕の家庭教師のはずなのにおかしいな…… なんで美也があんなに喜んでいるんだ?
 でもまあ、ひびき先輩と二人三脚で勉強か。がんばらなくちゃ。



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