アマガミ 響先輩SS 「彼女の進路」



 「(お腹も一杯になったし、ちょっと寒いけどテラスで一休みするかな……)」

 「(お、ちょうど席が空いているじゃないか。ついてるなあ。これでひびき先輩か
 七咲がやってきたりすると楽しいんだけどな)」

 「(はは、それはぜいたくってものか)」

 「せーんぱいっ」

 「おぉ!? な、七咲」

 「クスッ、どうしたんですか? そんなにびっくりして」

 「いや、ちょうどテラスに席が空いていて、これで七咲がきたら今日はついてる日
 だなって思ってたんだ」

 「そうだったんですか。ふふ、いいことあるといいですね。あ、ここ、座っても
 いいですか?」

 「もちろん」

 「あっという間に3月ですね」

 「そうだな。七咲もあと少しで2年生か」

 「それが全然実感が湧かないんです」

 「そんなもんだよ。僕だって4月から3年生って言う実感はないしね」

 「そうですよね。あ、そうだ……」

 「うん?」

 「最近、塚原先輩が部活に来る回数が減っているんです。以前だったら練習日には
 必ず参加していたのに、最近は2回に1回か、それ以下になっていて」

 「3年生はもう卒業だし、随分前に引退しているんだから、それが普通なんじゃ
 ないか?」

 「そう……なんですけど、でも、塚原先輩のいない水泳部ってなんだか不思議で……」

 「……そうだろうなあ」

 「ええ、それに最近、塚原先輩から、あとは任せたからってよく言われていて、
 それって自分がいなくなるからその分今の2年生のフォローをしてくれってこと
 だと思うんですけど……」

 「きっとそうじゃないかな」

 「でも、私にそれが務まるのかな、って、ちょっと不安なんです」

 「うーん、ひびき先輩がどう思っているのかはわからないけど、普段から七咲は
 できる子だって言ってるし、大丈夫だと思うから言ってるんだと思うよ。
 ……先輩は無責任なことは言わないから」

 「あ、そう……ですね。そうですよね。うん、私、がんばります」

 「僕じゃ助けにならないかもしれないけど、困ったら力になるよ」

 「ふふ、頼りにしてますね。お兄ちゃん」

 「お、それ、久しぶりに聞いたなあ」

 「だって、先輩と学校の外で会うことなんてあまりないじゃないですか」

 「確かにそうか」

 「ええ」


 「あ、いたいた」

 「え?」

 「ひびき……先輩? 森島先輩も」

 「2人楽しくお話? ひびきも混ぜてあげないとすねちゃうわよ」

 「はいはい、はるか、それはいいから。ふふ、探す手間が省けてちょうどよかったわ」

 「探す手間って……一体どうしたんですか?」

 「はい、2人ともはるかに拍手。ぱちぱちぱち……」

 「よ、よくわからないですけど、ぱちぱちぱちぱち……」

 「ふふふ、ざっとこんなものね。意外と余裕だったわ」

 「よく言うわよ。直前までうちで合宿状態だったのはどこの誰?」

 「さあ? 誰かしら」

 「まったくもう。このままじゃダメそうだからひびきの家に泊まり込んで
 勉強するわ!って宣言されたときはどうなるかと思ったわ」

 「そこをなんとかしちゃうんだから、ひびきって教えるの上手よね」

 「はるかががんばったからでしょ? 正直びっくりしたわ」

 「ふふふー、まあね」

 「はぁ、ちょっとほめるとすぐこれなんだから」

 「あ、あの、一体なにが……」

 「ふふ、ごめんね、これじゃよくわからないよね。はるかの進学先が決まったの」

 「おー」

 「あ、それじゃどこかの大学に合格したんですか?」

 「うん」

 「わー、おめでとうございますっ」
 
 「ありがとう。実はいくつか受かってはいたんだけどね、昨日ようやく本命の
 結果が出たの」

 「そうなんですか。それで、どこの大学なんですか?」

 「ひびきのところ」

 「え?」

 「ひびきと同じ国立大学」

 「そ、そうなんですか」

 「うん、はるかが急に第一志望を変えるって言い出したんだ。センター試験に
 出願していたからなんとかなったけど、私立型だったらアウトだった」

 「森島先輩がセンター試験を受けたのは聞きましたけど、まさか塚原先輩と
 同じ大学とは……」

 「ふふふ、みんなを驚かせようと思ってだまっていたの。落ちちゃったらみっとも
 ないしね」

 「あ、と言うことは4月からも森島先輩と塚原先輩は同級生……なんですね」

 「……そう言うこと。大学でもはるかのフォローをすることになりそうよ。
 まあ、一緒にいて飽きないからいいんだけど」

 「これからもよろしくね。ひびき」

 「はあ……、楽しい4年間になりそうね」

 「うん! 今まで以上にエキサイティングな日々が待っていると思うわ」

 「クスッ、塚原先輩。がんばってくださいね」

 「あ、七咲、他人事だと思ってるでしょ?」

 「いえ、そんなことないですよ。私は私で塚原先輩が卒業したあとの水泳部と、
 橘先輩のフォローがありますから」

 「あ、そういえばそうか。……ふふっ、迷惑かけるね」

 「いえ。言いだしたのは私ですし」

 「え? ぼ、僕のフォローって一体なんのこと?」

 「塚原先輩が卒業した後、橘先輩に変な虫がついたら困るじゃないですか。
 だからそうならないように私がチェックとフォローをするんです」

 「ええー。そ、そんなに信用ないの」

 「私は大丈夫だと思っているんだけどね」

 「今後の行ない次第です。先輩、がんばってくださいね」

 「ええーっ」


 森島先輩の進路が決まった。
 ひびき先輩は「やれやれ」と言いながらもすごくうれしそうだった。
 進路……か。僕の進路は……。いや、そんなに悩むことはないのかもしれない。



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