アマガミ 響先輩SS  「夕暮れ、帰り道」



 「(今日もひびき先輩と一緒の帰り道……)」

 「(まだ知り合って半年も経っていないのに、隣にいるのが当たり前のように感じる)」

 「(もう2月も終わりか……)」

 「どうしたの?」

 「え?」

 「なにか考えごとしてたよね」

 「わかります?」

 「まあ、なんとなくだけど。それで、なにを考えていたの?」

 「こうやって一緒に帰ることがいつの間にか普通になっているなあって」

 「それだけ?」

 「……もう2月も終わりだなあって。こうして一緒に帰るのも、もう数えるくらい
 かって」

 「あ……、確かに……そうだね」

 「……」

 「……」

 「はは、そんなにしんみりしないでください」

 「し、しんみりなんてしてないわよ。ただ……」

 「ただ?」

 「過ぎていく季節のことを……思っていただけ」

 「……」

 「あっという間に冬も終わりなんだなって。冬の始めに君と出会って、冬の終わりに
 こうして君の隣を手をつないで歩いている……。この冬は私にとって忘れられない
 冬だったなって」

 「それは、僕も同じですよ」

 「うん。君と一緒にこの道を帰るのはあと何回か。だけど、春が来て夏になって
 秋を過ぎてまた冬が来る頃に2人の共通の風景がなにになっているか、
 ふふ、楽しみだな」

 「そうですね。あ、でも、冬が終わるのは困るな」

 「なんで?」

 「寒いからって言う口実で手をつなげなくなっちゃうじゃないですか」

 「くすっ、手をつなぐ理由に季節なんてないよ。つなぎたいからつなぐ、
 それでいいじゃない」

 「そっか、それじゃ春以降も遠慮なく」

 「ふふ。でも、確かに今日は寒いね」

 「僕は大丈夫ですよ」

 「そう?」

 「つないだ手とマフラーが暖かいから」

 「そっか……。よかった」

 ……

 「あ、そう言えば、今って3年生は自由登校ですよね」

 「うん、受験日は人によって違うから。毎日来ているのは推薦組くらいかな」

 「先輩が推薦で合格してよかったです」

 「そう? あ、確かに気持ち的に余裕があるし、この時期バタバタしなくていいから
 こうして君と帰れるか……」

 「ええ、先輩が推薦で合格してなかったら、こんな風に一緒に帰れてなかったかも
 しれないし、そもそも」

 「そもそも?」

 「受験に集中したひびき先輩は、多分僕なんかに目もくれなかったんじゃないかと
 思うし」

 「そ、そんなことないわよ」

 「ホントに?」

 「うん……」

 「ホントにホント?」

 「うん……多分」

 「多分、かあ」

 「もう、橘君いじわるだね」

 「そんなことないですよ。僕は神様に感謝してるんです。ひびき先輩が推薦で
 受かってよかったって」

 「……もう」

 「あ、それで、受験なんですけど」

 「うん」

 「森島先輩の進路って決まったんですか?」

 「はるかの?」

 「ええ。12月あたりに、どうしよう、って言っていたと思うんですよ。そのあと
 どうなったか聞いていないから、ちょっと気になって……」

 「はるか……か。うん、まあ、はるかなりにがんばっているよ」

 「なんだか奥歯に物が挟まったような言い方ですね」

 「ふふ、君は時々鋭いからドキッとしちゃうな」

 「なにか隠してますね」

 「隠すって言うか、はるかに頼まれたんだ。決まったら自分で言うから、
 黙っていてくれって」

 「あ、そうなんですか」

 「心配かけたくないんだろうけど……、逆に心配しちゃうよね」

 「はは、確かにそうですね」

 「あ、そういえば君は進路、どうするの?」

 「え、僕の進路?」

 「うん、そう言えば聞いたことなかったなって思って」

 「うーん、国公立の理系……くらいですね。今、考えているのは」

 「早めに目標を決めておくとそこに向かって集中しやすいと思うよ」

 「そうですね……。推薦は今からじゃ手遅れだから一般で受けるとして、
 来年の今頃には先が見えてるのか……。はは、なんだか実感湧かないです」

 「私は運良く推薦で受かったから一般入試のことはわからないけど、
 でも、目標を立てるのは早いに越したことはないよ」

 「ええ、もう少し具体的に考えてみます。自分がなにをしたいのか。どこへ向かうのか」

 「うん、大した力にはなれないと思うけど、私も応援するから」

 「ひびき先輩が応援してくれるなら、なんでもできそうだな。どこにだって
 受かる気がする。空だって飛べるかも」

 「そんな調子のいいこと言っても、ふふ、なにもでないよ」

 「わかってますって」

 「あ、でも、本当にうまくいったらご褒美を考えてもいいかな」

 「ご褒美……、あんなことやらこんなことやら」

 「もう、そうやってすぐ話を変な方向へ持っていこうとするんだから」

 「いえいえ、健全な男子ならばこのくらいは」

 「……まったくもう」

 「あ、ひびき先輩、怒った?」

 「(チュッ)」

 「え? せ、先輩?」

 「ふふ、ご褒美の前払い。がんばってね」

 「え、あ、は、はい! がんばります!!」


 森島先輩の進路の話を聞いた。
 自分の進路のことを真剣に考えてみようと言うきっかけにもなった。
 ご褒美の前払いをもらったし、がんばらなくちゃ。



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