アマガミ 響先輩SS 「彼女の想い、僕の想い」


 「(塚原先輩の悩みって一体なんだろう)」

 「(僕や、森島先輩にすら言えない悩みって……)」

 「(でも、自分の考えがまとまったら話してくれると言っていた)」

 「(そろそろまとまっただろうか……)」

 「ふう、もうこんな時間か…… 僕まで悩んでも仕方ないな。屋上で頭を冷やそう……」

 ……

 「(あれ、フェンス際に座り込んでいるのは……塚原先輩?)」

 「(うつむいて顔が見えないけど…… うん、間違いない)」

 「塚原先輩」

 「え……。……あ、橘君」

 「どうしたんです、こんな寒いところで、しかもしゃがみ込んで膝抱えて」

 「ふふ、そう言う君だってこの寒いのに屋上に来てるじゃない」

 「僕は、頭を冷やそうかと思って」

 「そっか、……私も似たようなところかな」

 「先輩、考えってまとまりました?」

 「ううん、ちっとも。考えれば考えるだけ深みにはまっていく気がする」

 「そうですか……」

 「うん。あ、橘君は気にしなくていいよ。これは私の問題だし」

 「気になりますよ」

 「なんで? ファン、だから?」

 「もちろんそうですけど、ファンとか関係なく、仲のいい先輩が悩んでたら
 気にならないわけないじゃないですか」

 「そっか、ごめんね」

 「謝ってもらわなくてもいいです。僕にとっては先輩が笑顔でいてくれるのが
 一番なんですから」

 「……そっか」

 「ええ、この間一緒にプリクラを撮ったじゃないですか。塚原先輩のあの時の笑顔を
 いつも見ていたいなって、これでも結構真剣に考えてるんです」

 「笑顔、か……」

 「塚原先輩、もしよかったら僕に話して下さい。話しながら考えがまとまることって
 あるじゃないですか」

 「……そう、かもね」

 「ええ」

 「……あ、でも」

 「……」

 「……うーん」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」

 「ふう、わかった。そんな真剣な目で見つめられたら話さないわけにいかないでしょ?」

 「先輩」

 「いつから悩み始めたかはもうわからないけど、気がついたら毎日が不安で不安で
 しようがなくなっていて……」

 「うーん、そうですね…… どんなときに不安を感じるんですか?」

 「うん……そうだね、例えば授業中なにか考え事をしていて、ふとした拍子に……とか、
 部活の最中にも似たようなことがあるかな」

 「何を考えているときですか?」

 「え、あ、それは、その……」

 「そこがポイントだと思うんです」

 「……のこと」

 「え?」

 「君のこと、橘君のこと……」

 「え……」

 「ふとした拍子に君のことを考えて

  そう言えば君ははるかとも七咲とも仲がいいなって思って

  私にとって君はたった一人のファンだけど、君にとって私はたくさんいるファンの
 うちの一人でしかないのかなって思って

  そもそも君は私のファンだって言ってくれているけど、ファンはファンでしかない
 よねって思って

  私にとって君は、一緒に帰ることが当たり前で、わたしのことをわかってくれる、
  なくてはならない存在だけど、君にとって私って一体どんな存在なんだろうって考えて

  遊園地にもプールにも一緒に行ったし、プリクラも撮った。一緒に帰ることも
 多いから、七咲やはるかよりは一歩……ううん、半歩くらい君に近いのかなって自分を
 納得させようとして

  だけど、実際に君がはるかや七咲と仲良く話をしているのを見ると、ちょっと寂しくて

  そんな風にネガティブに思う自分がなんだか嫌で

  嫌なんだけど、もうどうにもならなくて

  そんなどうにもならない私なんて、君の横にいるのは相応しくないよねって思って

  いつか、君が私から離れて行ってしまうかもって思うと、すごく不安で

  君にそれを話してしまったら、はるかや七咲とのつきあいがぎくしゃくしちゃう
 かなって思うと、君にも言えなくて

  だから不安だけがどんどん膨らんで

  でもその不安をどうすることもできなくて……」

 「(な、なんてことなんだ。塚原先輩の不安の原因が僕にあったなんて)」

 「(塚原先輩が僕のことを考えて不安になっていたなんて、僕はなんて
 無神経だったんだろう……)」

 「(僕にとって塚原先輩はどんな存在なんだ。その答えを出すべきじゃないのか?)」

 「(仲のいい先輩。あこがれ。いや、それだけじゃないはずだ)」

 「(パーフェクトな存在、落ち着いた雰囲気、でも、可愛い小物や服が大好きで、
 包み込んでくれるような暖かさを持っていて、一緒にプールではしゃいだりプリクラを
 撮ったり……)」

 「(そうだ。僕は塚原先輩のあの笑顔を守りたいって思ったじゃないか。そんな風に
 思えるのは塚原先輩だけなんだ)」

 「(誰よりも特別な存在…… そう、僕にとって塚原先輩は誰よりも特別な……)」

 「(塚原先輩に安心してもらうには、どうしたらいいんだろう)」

 「(塚原先輩が僕にとって他の誰よりも特別な存在なんだと伝えれば、先輩の不安は
 解消されるだろうか)」

 「(どうしたらいいんだ、森島先輩や七咲よりももっと特別な大事な存在だと伝える
 には……)」

 「(どうしたら……)」

 「……塚原先輩っ」

 「あ……」

 「す、すみません。突然…… でも、僕の気持ちを伝える方法がこれしか浮かばなくて」

 「橘……君」

 「不安に思うことなんてないんですよ。僕はどこにも行ったりしません」

 「……」

 「僕がこんな風に抱きしめたくなるのは、塚原先輩だけなんです」

 「……」

 「森島先輩はきれいな人だし、七咲は可愛い後輩だけど、こうしていたいのは
 塚原先輩だけです」

 「橘君……」

 「身体冷え切ってるじゃないですか……」

 「ううん、大丈夫。君がとても暖かいから」

 「塚原先輩」

 「うん?」

 「前に先輩は僕の公認ファン第一号だって言いましたよね?」

 「うん、そう言ってくれたよね」

 「僕のファンクラブの定員は、一人なんです。先輩はそのたった一人の会員」

 「そう、なんだ……」

 「ファンクラブの会員には特典があるんです」

 「……どんな?」

 「いらないって言われても、おまけで僕がついてくるんです」

 「くす、いらないなんて、そんなこと言わないよ」

 「よかった。返品するって言われたらどうしようかと思った」

 「橘君。私、安心していいのかな。自信もっていいのかな」

 「ええ、自信もって下さい。先輩は僕にとって、誰よりも特別な存在なんだから」

 「橘君……」

 「さあ、一緒に帰りましょう」

 「うん」

 「……」

 「……」

 「今日もどこかに寄っていきますか?」

 「……そうだね。商店街のほうに行ってみようか」


 塚原先輩に、先輩が僕にとって特別な存在なのだと言うことを伝えた。
 先輩は安心したような笑顔を見せてくれた。
 二度とこんな気持ちにさせないようにしなくちゃ……。




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