アマガミ 響先輩SS 「理由と誤解」


 「(せっかくの休み時間だし、気分転換に屋上に行ってみよう)」

 「(あ、あれは塚原先輩だ。また森島先輩から逃げてきたのかな)」

 「塚原先輩」

 「あ、橘君。屋上で日向ぼっこ?」

 「まあ、そんなところです。塚原先輩は?」

 「……いつものごとく、はるかから逃げてきた」

 「相変わらずなんですか? 森島先輩」

 「まあね。あ、でも今日はちょっと様子が違ったかな」

 「違うってなにがですか」

 「うーん、今までは”ひびきをめろめろにするような相手は誰? 白状しなさい”って
 追いかけてきてたんだけど、今日は”悪いようにしないから、正直に言いなさい”
 だったかな」

 「同じような違うような……」

 「ふふ、そうね。ニュアンス的な問題だと思うんだけど……伝えるのが難しいな」

 「あ、ところで塚原先輩」

 「なに? かしこまって」

 「昨日一緒に帰った時に、なんで塚原先輩のファンなのかって聞かれて、僕はうまく
 答えられなかったですよね」

 「そう言えばそうだったね。……でも、理由なんて気にしてないよ」

 「昨夜、色々考えてみたんです。なんで僕が塚原先輩のファンになったのか」

 「……」

 「塚原先輩って、面倒見がすごくよくて、勉強もできてスポーツもできて、文武両道
 才色兼備ですよね」

 「それはかなり言いすぎかな。そんなにすごいわけじゃないって話、前にもしたよね?」

 「ええ、聞きました。多分僕は、そんな完璧なだけの塚原先輩だったらファンになって
 なかったと思います」

 「え?」

 「一見すごいのに、かわいい小物が好きだったり、ピンクと白のかわいい手袋を下校
 時に隠れて着けたり、迷子の子供の相手をするのに躊躇したり、でも、実際に相手を
 すると子供がすごく懐いたり、普段のイメージとは違う洋服が気になったり。森島先輩
 に突っ込まれて防戦一方だったり、そんなところがあるから、そんな部分を知ることが
 できたから、僕は塚原先輩のファンになったんだと思います」

 「……」

 「塚原先輩?」

 「ふふ、君ってすごいね。私のこと、結構ちゃんと見てくれているんだ」

 「そりゃあ、ファン一号ですから」

 「なるほどね」

 「納得してもらえました?」

 「あんまりこう言う経験はないから、すぐには信じられなかったけど……」
 
 「え」
 
 「でも、ふふ、君の目がすごく真剣だったから、ホントなんだなって」

 「そしたら、今日も帰りに正門で待っていますね」

 「部活が終わってからだから遅くなっちゃうけど、それでよければ」

 「やったー」

 「んもう、そんなに大げさに喜ぶこと?」

 「ええ」

 「……私もうれしい、かな。そんなに喜んでもらえて」

 「え? なにか言いました?」

 「ううん、なんでもない」


 「あ、見つけた。こんなところにいたのね。ひびき」

 「え? あ、しまった」

 「も、森島先輩」

 「あら、橘君も一緒なんだ。もう隅に置けないなあ。この、このぉ」

 「はぁ、はるか、言ったでしょ? しつこい、って」

 「そんなことないわよ。悩める親友の恋の手伝いをしようって言ってるだけよ」

 「それがお節介なの。もう、自分のことくらい自分でするって言ってるでしょ」

 「ま、まあまあ二人とも……」

 「塚原先輩。私たちの話をちゃんと聞いてくれませんか?」

 「七咲」

 「そうそう、悪いようにはしないって言ってるじゃない」

 「あの、私たち見ちゃったんです。昨日の帰り、塚原先輩と、橘先輩が仲良く帰って
 いるのを」

 「え……」

 「そ、それじゃあの人影は……」

 「はい、私と森島先輩です」

 「逢ちゃんに”ひびきがなかなか白状しない”って言ったら、だったら誰と一緒に
 帰っているか待ち伏せして確かめようって言うから。ね?」

 「学校から帰る塚原先輩のあとを、見つからないように追いかけたんです」

 「まさかひびきの相手が橘君だったとはねえ…… 灯台下暗しとはまさにこのことだわ」

 「はるか、尾行なんて趣味悪いわよ」

 「ひびきが白状しないからよ」

 「な、七咲。と言うことは、帰り道ずーっと僕たちの後ろにいたってこと?」

 「はい、そうです……。二人が楽しそうに話をしているのも、その、手をつないで
 歩いているのも」

 「あ、あれは……」

 「手をつないでいるように見えたのは、手袋の触りごこちを確認していただけですよ」

 「それにしては手をつないでいた時間が長かった気がしたけどなあ」

 「あまりに触りごこちがよかったんで、手を離すのを忘れてたんです」

 「うーん、橘君、言い訳にしてはちょっと苦しいと思うよ」

 「先輩。言い訳しなくていいですよ」

 「な、七咲までそんな風に言うの?」

 「私たちは別に先輩方を責める気はないですから」

 「あのね、七咲、それにはるかも。一緒に帰ったのは確かに事実だし、手をつないでる
 ように見えるようなことをしたのも事実だけど、あなた達が思っているような仲じゃ
 ないわ。それは誤解しないで。彼が迷惑するでしょ?」

 「またまた、そうやって橘君をかばうあたりあやしいなあ」

 「はるか、いい加減怒るわよ」

 「わお」

 「あ、あの、森島先輩。もしかして塚原先輩の言うとおりなんじゃないですか?」

 「うーん、そうねえ。ひびきがここまで強く言うんだからそうなのかもね」

 「わかってもらえました? 迷惑かどうかはともかく、二人の誤解です」

 「そうねえ、二人が付き合っていない、と言うことはよくわかったわ」

 「やれやれ」

 「でも、すごーく仲がいいのは事実よね。これからに期待してるわ」

 「……え?」

 「仲のいい先輩後輩がいつのまにか…… なんてよくある話でしょ?」

 「も、森島先輩」

 「どう、橘君。ひびきはこう見えてすごーくいい子よ、私の折り紙つき」

 「はるか。結局なんにもわかってないじゃない」

 「わお、ひびきが怒った」

 「怒るわよ」

 「それじゃ、私は教室に戻るわね」

 「あ、も、森島先輩。待って下さい。つ、塚原先輩、橘先輩、失礼します」

 「あ、ちょっと……」

 「はあ、まったくもう。はるかったら」

 「あの誤解はちょっとやそっとじゃ解けそうにないですね」

 「思い込んだら人の話を聞かないんだから……」

 「それにしても、やっぱり見られてたんですね……」

 「……そうね。それもよりによってはるかと七咲か。ごめんね、橘君。巻き込ん
 じゃって。迷惑でしょ?」

 「そんなことないですよ」

 「え?」

 「少なくとも、迷惑には思ってないってことです」

 「そう、よかった」

 「あ、でも、今日の帰りは別々に帰ったほうがよさそうですね」

 「そうだね、残念だけど」

 「え?」

 「あ、ううん、なんでもない」

 「僕も残念ですよ。せっかく塚原先輩と一緒に帰れると思ったのに」

 「そ、そう?」

 「ええ、残念です。また、触りごこちのいい手袋に触らせてもらおうと思ったのに」

 「くす……まったくもう」


 塚原先輩に、なんで自分がファンなのかをわかってもらえた。
 でも、まさか昨日一緒に帰ったところを見ていたのが、森島先輩と七咲だったとは……
 二人の誤解は簡単には解けそうにない。
 でもいいか、塚原先輩は僕と一緒に帰ることを楽しみにしてくれているみたいだし。



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