Chapter 02
◆結婚式
de la Rochefeucauld 伯爵とは6年前に、親友の妹さんのデビュタントで会って以来でした。一度だけしか会ったことがない人から招待状が届くというのも妙なのですが、盛大に祝いたいという気持ちが伝わってきました。de la Rochefeucauld 家というのは、このサイトをごらんの方の中にも家名を耳にされた方もあるかと思いますが、フランスでも非常に古い家系の貴族でその一族数は膨大で、総本家の爵位は公爵です。貴族に関心がない方でも知っておられるのは、ご先祖のロシュフーコー公爵が『箴言集』と訳されている著書を成して、今でも岩波文庫に入っているからでもあります。たまたま総本家の女主人がこの結婚式の直前に亡くなったことを耳にしましたが、特に結婚式に支障はありませんでした。
今回式が執り行われるのはフランス北東部ノルマンディー地方、第二次世界大戦の連合軍上陸作戦で有名なCaen市郊外のVersanvilleというシャトーでした。車の手配をしようと思ってホテルのフロントに場所を尋ねても良く分からないようで不審に思ったのですが、実は大戦後18世紀の美しい城館は伯爵家の手を離れて某企業に売却され、つい最近買い戻されたのだそうです。ですから内装も驚くほどの美しさを期待できるわけでもなく、家具類はほとんどレンタルで借りている・・・とあとでパリのある貴族が皮肉交じりに教えてくれました。
礼拝堂での挙式の後、シャトーを訪れましたが、非常に洗練された面持ちの館でしたが、相当ダメージを受けているようで、ここで生活するとなると大変なのではないかと思いました。ただ、客人として訪れるには非常に楽しい場所で、裏庭にぬける階段や窓の外には蝋燭がともされ、非常に幻想的な雰囲気になっておりました。裏庭には大きなテントが張られそこで軽食と食前酒が振舞われたのですが、イギリスに近いノルマンディーの天気は悪く、霧雨が降ってきたのは大変残念でした。

夜になり、窓辺に置かれた蝋燭がいっそう幻想的な雰囲気になったころ、執事の方がリストを配り席次が伝えられました。あまりに多い参列者のために、一階にあるすべてのホール4部屋にいくつもの円卓を置き、一つ一つがオペラのタイトルが付けられていました。招待状にはカクテルのみの記載だったので正式な晩餐があったのは非常に驚きでした。まぁ、フランスのパーティーで晩餐を供さないなどということは無いのでしょうけれども・・・。

今回の結婚式の服装は入り乱れており、基本的に新郎新婦の一族の方はモーニングで、一般参列者はダークスーツというお話でしたが、イギリスからの参列者はモーニングを着用しており、私は一応民族衣装ということで色紋付を着用しました。ダークスーツの格に合わせるために色物を着用しましたがどうしても目立つ格好だけに、色は地味な黒紋付で行けばよかったと後悔しました。その後フランスの晩餐会の常として、舞踏会・・・というより若い新郎新婦の若い客に合わせて、テーブルを取り払ってDJを招いてディスコミュージックがノルマンディーの城に響き渡るのですが、袴という事もあり、非常に疲れていたので、草々に辞去いたしました・・・。それでも朝の1時でしたから、何時まで宴は続いたのでしょうか・・・。

◆『貴族は辛いよ』
今回の結婚式に参列したり、フランスの貴族の友人たちと再会して改めて思ったのは、皇族がたが華やかなようでいて非常にご多忙なように、ある意味貴族であるということは大変なことであり、ある意味辛いことなのだろうなぁ、と思ったのです。今回の結婚式に親友は招待されなかったのですが、どっちにしてもベルギーの大貴族に嫁いだ叔母さんの結婚記念日のミサがブリュッセルであるので出かけていき、この次の日曜日はローマで先祖が聖列にくわえられるミサがあるので出かけるといっていました。その間にも夜会がいくつかあるようなのですが、フランスの夜会は早く終わっても12時くらいですから、仕事以外にこのような『公務』を果たさなくてはならないのですから大変なことです。皇族方やいまだに王侯の制度が残っている国ならばいざ知らず、公的な立場の無いフランス貴族にとってみたらば、出費は自腹を切るわけですし、交通費や衣服代、クリーニングなどを考えると大変な金額です。所領などがあればいいのですがそうでない貴族も数多く、体面を保つのが本当に難しい状況になってきています。社交雑誌などはいつも貴族を狙っていますから、少しでも変なことがあれば公人としてすっぱ抜かれたりしてしまいますし・・・。希望してなったというのならばいいのですが、産まれついてということは、ある意味残酷なことなのかもしれません。
日本にも旧皇族や旧華族の方々がおいでになりますが、自分の知っている範囲では正直なところ、フランスの貴族ほど不自由な感じはしません。フランスでは本当に貴族の集まりが多く、そのひとつに出てしまうと、他のところにも出なくてはならなくなってしまうわけですし・・・。