Collection No.203 カルティエ ドレスセット
1910〜1920 フランス
おそらく燕尾服の着用に使用されたと思われるカルティエのドレスセットです。
現在でも継続しており、世界のトップクラスのジュエラーとして、知らない方がいないであろうカルティエですが、今世紀初頭のころのカルティエはこの作品に見られるとおり、現代販売されているものとは桁違いに丁寧で繊細な作りをしております。
1910年代は非常に繊細で細やかな作りの宝飾品が流行したしましたが、この作品もその時代の風潮を反映してとにかく細やかでエレガントな雰囲気をかもし出しております。写真でもお分かりいただけるように、ダイアモンドのセッティングは、19世紀のものとも、アールデコの頃とも全く違い、とにかくセッティングを見せないようになされており、ごくごく小さな極上のメレダイヤを取り囲むミル打ちも本当に細かく打ち込まれております。この時代の著名なメゾンでは、ミル打ちはそれのみを行う専門の職人を抱えており、今では決して再現できないほどの丁寧な職人技で煌いております。中央部の仕様は、燕尾服着用にふさわしくアイボリー色の不透明エナメルを用いておりますが、一見立体的な網目模様に見えるほど微細な彫金をエナメルを用いられていない部位に施してあります。エナメルを焼成した後に、規則正しくこのような彫金を行うのは至難の業で、少しでも力の加減を間違えればエナメルは簡単に割れてしまいます。この気の遠くなるような細工は、カフスボタンだけではなく、5ミリほどの円形のスタッドにも施されてるのが驚異の技であると思います。スタッドはワイシャツの胸ボタンとして用いたものですが、現在は3つが普通なのですが当時は2つ用いるのが通常でした。
ダイヤモンドのセッティングは繊細な細工を可能にしたプラチナにされており、裏面をごらんいただくと分かるように、後からイエローゴールドとはめ合わせて一体化されております。裏面には Cartier Paris のサインと、面白いことに Made in France の文字が入っております。かえって、この Made in France の文字が怪しげでしたが、文献ではこの当時のカルティエには英語でこの表記がされていたそうです。この当時カルティエはロシアのサンクトペテルスブルグに出店し、ファベルジェなどと対抗してロシア市場の開拓を行ったり、国際的な市場の確保に奔走しておりました。そういった事も反映した英文表記なのかもしれません。現在の世界的なカルティエの市場を築き上げる黎明期の作品で、今では老舗となってしまった『ブランド』ジュエラーが、これから世界に打って出ようと、職人たちを動員して本当に良い物づくりをしていた情熱が感じられます。
パリの最高級クラブ Jocky Club の前で、燕尾服を纏ったエドワード7世や名門フランス貴族を描いたセムのカリカチュアがありますが、そんな正統的なエレガンスを伝えてくれる逸品です。
fig1. 裏面のディテール
fig2. 表面のディテール