Collection No.3  エナメル カフリンクス
 1896以前 ロシア・サンクトペテルブルグ製

これもモスアゲートカフリンクス同様、製作者名は不明なのですが、ファベルジェといってもおかしくないほどのクオリティの高いエナメルが施されております。エナメルの色は淡い桃色ですが、ファベルジェに見られるような半透明で少し白濁した色調のために、見る角度によって冬の朝日のような優しいオレンジ色がかった表情も見せます。

ロシア帝室の紋章が細かく彫金された中央部は、舵輪をモチーフにした繊細なギョッシェエナメルの輪に収まっております。このことからも帝室からの下賜品であるか皇族が使用していた可能性も否定できません。舵輪というデザインからも海軍関係者の所有であったとも考えられます。興味深いのは、これに非常に近似したファベルジェ製カフスボタンをニコライ2世が所有していた事実があります。

この作品はニューヨークにあるファベルジェ専門の宝石商 A La Vieille Russie より購入したのですが、刻印は不鮮明で解読不能という説明でしたが、手元に来てからよく調べてみますと、1896年までサンクトペテルブルグで使われていた刻印 zolotniki と呼ばれるものを発見しました。これは金のキャラット数を表すもので、56という数字がこの作品には打ち込まれていましたが、ロシアの純度表示は96が24金に相当し、72が18金ですので、この作品は14金に相当する金を使っていることが分かります。ファベルジェを始めロシアのジュエリーデザイナーは、金や宝石の価値以上にデザインを重視していたので、輸出向けでない作品にはあえて14金等を使った作品を多く残していました。


fig1. 表面のディテール