Collection No.2  エナメル カフリンクス
 c.1890 フランス ショーメ製

このカフリンクスはフランスの Joseph Chaumet による作品です。 Joseph Chaumet は1852年に産まれ、元々は船長の息子でしたが、ナポレオン1世時代から帝室御用達ジュエラーであるモレル一族との婚姻から宝石商に転じました。正式に商売を引き継いだのは1889年であることから、この作品のおおよその年代は1890年代であると推測しました。

デザイン的には第二帝政様式に基づいており、ナポレオン3世時代に好まれた要素が色濃く表れております。まず特徴的な黄緑色のボーダー模様はリモージュ焼きの陶器にも使われるほど好まれていました。この部分は透明なエナメルで、下に繊細なギヨッシェ彫が施されてあります。その外側と内側には不透明の白色のエナメルが施されており、典型的な帝政好みの月桂冠が掘り込まれています。この月桂冠がどのようにして掘り込まれたのか本当に不思議になるほど繊細で立体的なのですが、恐らく金細工の月桂冠を挟み込んで白色のエナメルを焼成したように思われます。

中央のサファイアはカボッションカットで、非常に淡く菫色をしたエレガントな印象の石です。19世紀には現代において珍重されるような濃い色のサファイアよりも、淡くロマンティックな色合いのサファイアを好みました。このサファイアも時代の趣味嗜好をよく反映した、素晴らしい石であると思います。

このカフスボタンが作られた時代は過去のデザインをリバイバルした時代で、19世紀の末には帝政様式を熱狂的に歓迎する空気があったようです。プルースト著の『失われたときを求めて』にこの時代の趣味について触れているくだりがあります。『ゲルマントの方』という巻の中でプルーストは、ナポレオン時代に貴族になったイエナ家に残された帝政様式の家具を、絶賛し熱狂的な賛辞を贈る王党派(政治的にはボナパルティストと呼ばれるナポレオン派の貴族とは対立関係にあったのですが)のゲルマント公爵夫人を描いております。もしかすると、このカフスボタンもそういった貴族の一人が注文して作らせたのかもしれませんね。


fig1. 表面のディテール


fig2. 裏面のディテール

参考画像 第二帝政趣味の磁器