バカラ シャンパーニュ・クープ グラス
c.1910 フランス
このバカラのシャンパーニュ・グラスは、パターンを PAU といい、今世紀初頭のバカラの最高の時代の雰囲気を伝えてくれる逸品です。色着せの技術が素晴らしく、エメラルドグリーンのような鮮やかな緑色のグラスを透明なグラスにかぶせ、本当にわずかな部分を残して削り取ってしまうといった、非常に手間のかかる、また高度な技術によって作られております。この時代、バカラはロシアの宮廷に納品しており、Tsar Service という非常に背の高い色着せのグラスを製造しておりましたが、このグラスもまた、同じくらいの年代に属していると考えられます。(ちなみに、Jean-Louis Curtis 著の『Baccarat』という本では、1909年製の Tsar Service が紹介されております)
このグラスのカッティングパターンは、まるでゴシックのステンドグラス窓を連想させるアーチで構成されており、ボウル部分だけでなく、ベースの部分にも同じようなカッティングが施されております。ステム部分にはまるで竹のような規則正しい節目が削られており、全体として余すところなく贅沢にカッティングが施されておりますが、硝子が非常に薄く、繊細な為に、嫌味になることなく、絶妙なバランスを保っております。又、Tsar Service などにはない、鮮やかな金彩が全体を引き締め、力強さを与えているように思えます。まさに今世紀初頭の最もエレガントでデリケートな時代を反映しております。
緑の色も少しムーンストーンのような青みがかったシャンパーニュの水色をいっそう怜悧に引き立たせてくれることを思うと、実用という観点からも、非常に優れたグラスであると考えられます。
このグラスについて Gallery Grace 様にご協力をお願いしたところ、非常に面白い情報をいただくことができました。
Pauというのはフランス南部の古都の名前で、アンリ4世が生誕した有名な城の名前であるそうです。フランボイアント・ゴシックの有名な城であるそうですが、革命で破壊された後、ルイフィリップ王とナポレオン3世によって復興された名城のようです。そのことを考えますと、このグラスの華麗なゴシック風の装飾もPau城をイメージしたものであるように思えます。
fig1. 上から見たボウル部分のカッティングパターン